法改正後、設計段階で省エネ基準を満たしていない建築物は、確認済証が交付されないため着工ができません。
省エネ基準のひとつの指標となるのが、建築物の断熱性能です。建築物のエネルギー消費量を削減するには、断熱性能を高めて熱損失を抑制することが効果的な手段となるためです。
しかし、省エネ基準の適合には高い断熱性能が求められるだけでなく、断熱材の種類は非常に豊富なことから、選定に悩むケースも少なくありません。
ここでは、省エネ基準に求められる断熱性能を始め、断熱材の種類や選び方、注意すべきポイントについて徹底解説します。
省エネ基準の適合に求められる断熱性能
省エネ基準の適合に求められる断熱性能
また、住宅では断熱性能が省エネ性能を評価する基準のひとつとなっているのに対し、非住宅建築物では、エネルギー効率を示す指標であるBEI値だけが対象となるため、断熱性能は対象外です。
しかし、住宅・非住宅に関わらず、断熱性能の向上はエネルギー消費性能全体に影響を与える重要な要素となります。
― 住宅の断熱は「UA値」と「ηAC値」で評価
― 住宅の断熱は
「UA値」と「ηAC値」で評価
「UA値」とは、「外皮平均熱貫流率」をいい、室内と外気の熱の出入りのしやすさを表す数値です。室内と外の温度差が1度の時、一定時間内に家の中から外に逃げる熱量を計算します。その熱量を、家の外側の表面積で割ることで、建物全体の熱の逃げやすさを算出します。
以下のような計算式となります。
一方で「ηAC値」とは、「冷房期の平均日射熱取得率」です。一定量の太陽光が当たった時に、室内にどれくらいの熱が入ってくるかを計算し、建物の外側の表面積で割ったものです。
数値が小さいほど、日射熱が室内に入りにくく、遮蔽性能が高いことを意味します。ηAC値は、以下の計算式で数値が割り出されます。
この等級は7段階あり、数字が大きいほど断熱性が高いことを示します。2025年4月以降に着工する建築物には、断熱等性能等級4以上の達成が義務付けられます。


UA値とηAC値の基準値は地域によって異なる


地域区分に関しては、国土交通省の「地域区分新旧表」でも確認できます。省エネ計算をする前に、計算する建築予定地がどこに該当しているのかを確認した上で計算を進めましょう。
― 非住宅では「パルスター(PAL*)」で断熱性能を評価
― 非住宅では「パルスター
(PAL*)」で断熱性能を評価
パルスター(PAL*)は、建物内の特に外気に接しやすい場所(窓際など)で、1年間にどれくらいの熱の負担があるかを計算し、その場所の床面積で割った数値です。単位は「MJ/㎡/年」で表されます。計算式に表すと以下のようになります。
― 断熱の仕様は明確に定められていない
― 断熱の仕様は明確に定められて
いない
ただし、建築物は、形状や方位などの様々な仕様によって計算数値が大きく異なるため、断熱材や厚みに関する明確な規定はありません。
そのため、省エネ計算を行い数値を確認しながら省エネ基準を満たす仕様を探す必要があります。
断熱性能を高める仕様には、例えば以下のような方法があります。
- グラスウール、ロックウール、ポリスチレンフォームなどから適切な断熱材を選ぶ
- 複層ガラスやLow-Eガラス、樹脂サッシなどの断熱性能の高い窓や断熱ドアを採用
- 夏の日差しを遮る庇や遮熱フィルム、冬の日差しを取り込む窓配置の検討
― 熱橋対策と折り返し断熱
折り返し断熱とは、柱や梁の周りにも追加で断熱材を入れる方法で、熱が逃げにくくなり断熱性能がアップします。柱や梁を挟むように断熱材を入れると効果的です。
断熱材・断熱開口部材の種類と性能の違い
断熱材・断熱開口部材の種類と性能の違い
熱抵抗値(R値)とは、仕様する断熱材や断熱開口部材の熱の伝わりにくさを表す数値です。数値が大きければ大きいほど、熱が伝わりにくくなります。計算式は以下の通りです。
つまり、断熱材を選ぶ際は、熱伝導率(λ値)が小さい素材を選ぶことで、より薄い断熱材でも高い断熱効果を得られます。
例えば、熱伝導率0.02の素材は、熱伝導率0.04の素材と比べて同じ厚さでも約2倍の断熱性能を発揮するため、限られた壁厚でも効果的な断熱対策が可能です。
断熱材選定の際は、コストだけでなく、この熱伝導率の数値確認が重要です。
― 断熱材の種類


高性能な断熱材ほど価格が上がる傾向がありますが、断熱性能と施工性、耐久性なども含めて総合的に予算を考慮した上で最適な断熱材を選ばなければなりません。
― 断熱開口部材の種類





例えば、南向きで日射が多く入る部屋には、遮熱性能の高いLow-Eガラス(遮熱タイプ)を採用することで、夏の室温上昇を効果的に抑制できます。逆に北向きで日射が入りにくい部屋には、採光性の高い窓ガラスを選ぶことで、室内を明るく保つことができます。
また、寒冷地域では、高い断熱性能を持つトリプルガラスと樹脂サッシの組み合わせが効果的です。
― 断熱性能を高めるための断熱材
の仕様
― 断熱性能を高めるための断熱材の仕様


ただし、地域によって必要な熱抵抗値が異なるため、同じ断熱材でも地域ごとに必要な厚さが変わります。
例えば、寒冷地では高い断熱性能が求められるため、より厚い断熱材が必要です。以下の表は、木造住宅の充填断熱工法における、地域別の必要断熱材の厚さを示しています。


熱伝導率の低い高性能断熱材ほど必要な厚さが薄くなるため、壁厚に制約がある場合や施工スペースが限られる場合に適しています。高断熱住宅を目指す場合は、断熱性能の高い素材を十分な厚さで使用することが重要です。
― 建物の構造によって断熱の対策が異なる
― 建物の構造によって断熱の対策
が異なる


一方、鉄骨造の建物では鉄骨の熱伝導率が高いため、適切な断熱材の選定と施工に加え、熱橋対策の考慮も必要です。
鉄筋コンクリート造(RC造)の建築物は、コンクリートの蓄熱性が高く、外気温の影響を受けにくいという特徴があります。しかし、断熱対策を怠ると、夏は室温が上昇しやすく、冬は一度冷えると暖まりにくいという特徴があります。そのため、RC造の建物では、躯体の外側に断熱材を施工する外断熱や、内側に断熱材を施工する内断熱が有効な対策となります。
建築物の部位によっても断熱の対策が変わる
建物の中で、特に熱の出入りが多いのは屋根、外壁、床、そして開口部です。それぞれの対策は以下の通りです。

例えば、寒冷地では高い断熱性能が求められるため外断熱が適していますが、コスト面を重視する場合は充填断熱が選ばれることもあります。最適な断熱性能を得るためには、建物の特性に合わせて適切な工法を選択することが重要です。
省エネ適判に向けた断熱性能の計算で注意すべきポイント
省エネ適判に向けた断熱性能の計算で注意すべきポイント
省エネ適判は、建築確認申請の前段階で建築物のエネルギー消費性能が、省エネ基準に適合しているかを第三者機関が評価する制度です。
省エネ適判と建築確認申請は連動しており、省エネ適判によって建築物が省エネ基準に適合していると判断されると「適合判定通知書」が交付されます。
建築確認申請に適合判定通知書を添付しないと、確認済証が交付されないため着工できません。
省エネ適判は建築プロジェクトの進捗に大きな影響を与えるため、計画通りに進めるためにも断熱性能の計算は正確かつ慎重に行う必要があります。
― 断熱性能の計算には専用ツールを利用する
― 断熱性能の計算には専用ツール
を利用する
計算ツールは、複雑な計算を自動化し、設計者が効率的に性能評価を行えるようサポートします。住宅と非住宅では計算方法が異なり、それぞれに適したツールが存在します。

非住宅建築物の断熱性能を計算する「非住宅建築物に関する省エネルギー基準に準拠したプログラム」では、「モデル建物法」「標準入力法」のどちらかの計算方法での入力が可能です。
モデル建物法とは、国が過去の実績を用いてモデル化したデータを利用して計算する簡易計算方式です。あらかじめ定められたモデル建物ようとに当てはめて計算を行うので、入力項目が少なく、わかりやすい内容になっています。
一方、標準入力法は、対象建物にもうける全ての部屋ごとの床面積や設備の詳細、外皮性能などの情報を入力して行う詳細な計算方式です。
一般的にはモデル建物法よりも標準入力法の数値が1〜2割程度良くなる傾向があるので、建物の性能が高いことを証明したい場合には、こちらの方法を用いると良いでしょう。
― 断熱性能が省エネ基準を下回る
と着工できない
― 断熱性能が省エネ基準を下回ると着工できない

審査期間が長くなれば、プロジェクトのスケジュールが影響を受ける恐れがあります。
計画通りに建物を完成させるためには、着工予定日から十分に余裕をもって省エネ検討を始め、申請準備を早めに進めておくことが重要です。特に断熱性能の計算と検証は慎重に行い、基準適合を確実にしておきましょう。
― 設計時と完成時の断熱性能が異なると引き渡しができない
― 設計時と完成時の断熱性能が
異なると引き渡しができない
特に、断熱材の種類・厚み・施工範囲や、省エネ性能に関わる設備機器の仕様や設置状況は重点的な確認項目です。
検査で設計時の計算内容と施工実態に相違が認められた場合、たとえ建物が完成していても検査済証が交付されず、引き渡しができなくなります。

軽微な変更では、A・B・Cの3ルートに分けて軽微な変更申請を行います。


上記のルートに該当しない計画変更の場合は、変更計画書・添付図書・委任状兼同意書の提出が必要です。
建築物の断熱設計は上岡祐介建築設計事務所にご相談ください
建築物の断熱設計は上岡祐介建築設計事務所にご相談ください
2025年4月1日以降、建築確認申請で断熱性能の計算書を提出しなければならなくなるため、業務の負担が増加する可能性があります。
「日々の業務が忙しくて省エネ計算をする余裕がない」
「断熱材や開口部材でどれを選べば良いかわからない」
そんなお悩みを持っている方はいませんか。上岡建築設計事務所では、そんなお悩みを解決しあなたの建築計画をサポートします。
上岡祐介建築設計事務所では、複雑な断熱性能の計算サポートも承っております。図面データを当社に送付いただくだけで、その後の断熱性能の計算から審査期間へのやりとりまで、全て弊社が行う「丸投げサービス」も可能です。
また、弊社では断熱性能を含めた省エネ計算だけでなく、断熱範囲図の作成も承っております。他の会社では「断熱範囲図の作成を断られた」という方も、弊社にご相談いただけたら整合の取れた省エネ計算書と断熱範囲図をまとめてお客様へお納めいたします。
お客様の業務をスムーズに進めるために、断熱設計における手厚く精度の高いサポートを行います。まずはお気軽にご相談ください。