Play Button

天空率とは?計算方法と
実務に役立つ3つの
ポイントを解説

株式会社上岡祐介建築設計事務所 » 天空率とは?計算方法と実務に役立つ3つのポイントを解説

建築物を設計する際、道路斜線などの高さ制限により、建物の形状が制約されることがあります。

この制限を緩和する方法として性能規定による「天空率」という考え方が導入され、主にマンションやオフィスビルの設計で活用されています。

天空率を用いることで、周囲の日当たりや風通しを確保しながら、より自由度の高い建築デザインを実現できる可能性があります。近年では一般住宅の設計においても天空率が活用されるようになってきました。

しかし、天空率の計算方法は非常に複雑で、建築設計のプロである設計士でも頭を悩ませることが多いのが現状です。

ここでは、天空率とは何か、その実務的な進め方や計算する際のポイントについて解説します。

天空率とは?

天空率とは?
天空率とは?

天空率とは、法で定められた地点から見上げた時に、どれだけ空が見えているかを数値化した指標です。地上の測定点から真上に向かって空を撮影(魚眼レンズのような360度の視界で)し、その円形の画像の中で建築物が占める面積を計算します。

全天空全体の面積から建築物が占める面積を引き、それを全天空の面積で割ることで、空がどれだけ見えているかの割合を算出します。

例えるなら、地面に立って真上を見上げた時、周りの建物などに遮られずにどれだけ空が見えているかを数字で表したものと言えます。

天空率を用いることで、道路斜線や隣地斜線・北側斜線などの高さ制限の緩和が適用されるため、従来よりも自由度の高い建築物の建築が可能になりました。

― 建築基準法に天空率が導入された背景

建築物を建てる際には、様々な高さ制限が設けられています。建築物の高さに制限があるのは、採光や通風等の周辺環境への影響を考慮し住環境の質を保つためです。

例えば、都市部などで高い建築物が密集して建てられると、日照や通風が妨げられ、周辺地域の生活環境が悪化する可能性があります。高さ制限があることで、建築物の周辺でも十分な日当たりと風通しが確保され、良好な住環境を維持できます。 建築物の高さ制限規制の中で、代表的なのが道路斜線制限です。

道路斜線制限は、前面道路幅を基準として周囲の日当たり、風通しを遮らないために建築物の高さを制限するために作られた規制です。 従来の斜線制限には以下の3つがあります。

  • 道路に面した建築物の高さを制限する「道路斜線制限」
  • 隣接する建築物への日照・風通しを確保する「隣地斜線制限」
  • 北側隣接地の日照を確保するための「北側斜線制限」

傾斜制限で問題となるのが、建築物のデザインが制限されることです。

従来の斜線制限では、建築物の高さが抑えられてしまうため、斜線に当たる部分は切り落としたような形状のデザインを余儀なくされるという事態も起きています。 そのため、お客様の希望の形状による建築物が建築できないという問題が発生していました。 この問題を解決すべく、2003年1月に建築基準法が改正されて第56条にある高さ制限の第7項として導入されたのが「天空率」です。

― 高さ制限の緩和効果がある

従来の斜線制限では、以下の計算式により建築物の高さが制限されています。

道路斜線制限

住居系地域

道路幅員 × 斜線勾配(1.25)
≧建築物の高さ

その他の地域

道路幅員 × 斜線勾配(1.5)
≧建築物の高さ

隣地斜線制限

第1種・第2種中高層住居専用地域、
第1種・第2種住居地域、
準住居地域

20m +(1.25 × 隣地境界線までの距離)
≧建築物の高さ

近隣商業地域・商業地域・準工業地域・
工業地域・工業専用地域・
構想住居誘導地区

31m +(1.25 × 隣地境界線までの距離)
≧建築物の高さ

地盤面が隣地より
1m以上低い場合の緩和

地盤面 =(隣地の地盤面 - 1)/ 2

北側斜線制限

第1種・第2種低層住居専用地域

5m +(1.25 × 北側隣地境界線までの距離)
≧建築物の高さ

第1種・第2種中高層住居専用地域

10m +(1.25 × 北側隣地境界線までの距離)
≧建築物の高さ

株式会社上岡祐介建築設計事務所 » 天空率とは?計算方法と実務に役立つ3つのポイントを解説

用途地域によって様々な斜線制限があり、斜線制限を満たさなければ建築確認申請による確認済証が下りません。敷地が不規則な形をしている場合や、細長い土地、道路に面する部分が狭い土地などでは、これらの斜線制限を満たすことが難しくなることがあります。

しかし、天空率では建築物の形状や配置を3次元的に分析できるため、従来の斜線制限よりも柔軟な建築が可能になりました。例えば、上層階を一律に削る必要がなく、建築物の一部を凹ませたり、角を丸めたりするなどの工夫で、より自由なデザインを実現できます。

株式会社上岡祐介建築設計事務所 » 天空率とは?計算方法と実務に役立つ3つのポイントを解説

このように、天空率を採用することで、これまで建築を諦めていた難しい土地でも、周辺環境に配慮した建築物が建てられるようになりました。

― 従来斜線と天空率の違い

斜線制限は、建築物を新しく建てる際に周りの道路や通路、日照・通風が損なわれないように、建築物の高さを抑えるための制限です。

建築物の高さを道路、隣地との距離、北側など特定の基準からの距離と角度によって制限します。図面から数値を算出し、基準を満たしているかを判断します。

一方、天空率では、任意の測定ポイントから正射影投影された「天空図」を使い、建築物が投影されている範囲以外にどれくらい空が見えているかを確認します。

天空図によって、空の見える範囲が基準よりも多いことが証明できれば日照・通風が確保できていると判断されます。

斜線制限では規制の対象となる建築物でも、天空率の基準を満たしていれば建築が許可されるようになりました。従来の斜線制限よりも精密な計算をするため、建築物のデザイン面でも有利な規制緩和を受けることが可能です。

ただし、天空率の計算は非常に複雑です。

そのため、CADソフト・解析ソフトなどを利用して精密な計算が求められます。非常に深い専門知識を要求されるため、プロの設計士でも計算に苦労している方が多くおられます。

天空率の計算を避けて、従来の斜線制限に則った建築物への計画を変更する方法もありますが、どうしても避けられない場合、天空率での計算が余儀なくされます。

― 斜線制限以外は対象外

天空率は、建築基準法で定められた斜線制限(北側斜線・道路斜線・隣地斜線)において、周辺の建物への日照や通風を確保しながら建築が可能かどうかを判断するための計算方法です。

そのため、容積率や建ぺい率、日影規制といった、建築物の規模や周辺への影響を制限する他の規制には直接適用されません。これらの規制は、都市計画法や建築基準法によって定められており、それぞれ異なる目的で運用されています。

天空率計算の実務的な進め方

天空率計算の実務的な進め方

天空率計算の実務的な
進め方

天空率を計算するための実用的な進め方を解説していきます。

手順は以下のとおりです。

  1. 測定点の設定
  2. 計画建築物の設定
  3. 適合建築物の設定
  4. 天空図の設定
  5. 天空率の算定
  6. 天空率を使った確認申請に必要な書類の作成

建築確認申請では、天空率の計算結果をもとに建築物が基準に適合していることを証明する書類の提出が必要です。

基準を満たしていないと判断された場合は、再計算や図面の修正が必要になるため、手続きをスムーズに進めるためにも、正しい算出方法を確認しておきましょう。

― 測定点の設定

天空率を算出するためには、測定点の設定が必要です。測定点とは、簡単に言えば「どの位置から空を見上げるか」を決める場所のことです。

作成した平面図を用意し、建築基準法の規定に基づいて各階の平面図上に測定点を配置します。

道路斜線天空率検討の場合、計画建築物の前面道路の反対側に、道路幅の1/2以上の間隔を空けて均等に測定点を設定し、各測定点において上空に向けて魚眼レンズカメラまたは全天球カメラで撮影を行います。測定点高さは道路の中心の高さとします。

隣地斜線天空率の場合は、建物の平均地盤とします。

CADソフトを使用する場合、ソフトの操作手順に従えば、測定点を自動で設定できるものもあります。

― 計画建築物の設定

天空率の計算では、計画建築物を正確にモデル化する必要があります。

建築物の高さが1m/m違うだけで天空率が大きく変わってしまいますし、建築物の形状が複雑な場合や、敷地に高低差がある場合は、さらに慎重な設定が求められます。

計画建築物の設定方法としては、3Dモデルの作成が一般的です。CADソフトを活用し、計画建築物だけでなく敷地内の花壇や塀、道路や隣接する建築物など天空率に影響する建築及び外構設備機器類も3Dモデルで再現します。

また、計画建築物をどこに配置するかも重要です。敷地内での正確な位置や、隣接する建物との高さや距離関係を細かく検討する必要があります。

その際は、建築基準法による高さ制限だけでなく、集団規定や単体規定に適合した建築計画を立てていきます。

― 適合建築物の設定

適合建築物とは、計画建築物が建てられる敷地に、法規で定められた高さ制限やその他の規制を守り、最大限の大きさで建てられると想定される建築物のことです。

計画建築物が適合建築物よりも十分な日照・通風が確保できていれば、天空率の基準を満たしていると判断できます。

適合建築物は天空率を判断する際の「基準」となり、計画建築物がこれを上回ると建築確認申請で適合となる可能性が高くなります。そのため、適合建築物の設定は計画の初期段階で慎重に行う必要があります。

― 天空図の設定

測定点・計画建築物・適合建築物の設定が完了したら、天空図を設定します。

天空図の作成手順は以下の通りです。

  1. 測定点から見た空を、投影面に投影する。地面に大きな紙を敷いて、その上に空の様子を映し出すようなイメージ
  2. 測定点から建築物の各頂点に向かって線を引き、投影面と交わるところに点を打つ
  3. 投影面と交わるところの点を繋ぎ、建築物の投影図を作成する

上記の手順で天空図を設定していきます。

― 天空率の算定

天空図の作成が完成したら、以下の計算式によって天空率を算定します。

天空率 = (投影面全体の面積 – 建築物の投影面積) / 投影面全体の面積

まず、投影面全体の面積から建築物が投影されている部分の面積を引き、残った面積を投影面全体の面積で割ることで天空率が求められます。

― 天空率申請に必要な書類の作成

建築予定の建築物に天空率を利用する場合、建築基準法第56条7項において、建築確認申請で天空率の算定結果を審査機関に提出し、審査を受けなければなりません。

天空率の申請において必要な書類には、以下のようなものがあります。

  • 計画建物及び適合建物配置図
  • 三斜求積図
  • 三斜求積表
  • 計画建物立面図
  • 天空図一覧
  • 建物位置確認表 など

建物位置確認表とは、建築物の日照や通風を確保するために必要な天空率を算出する際に建物の形状を明確に記録した表です。建築物のどこで天空率を測定したかを正確に記録してあります。

天空図や位置確認表において不備があると、審査機関から指摘を受け、再計算を求められます。天空率の計算だけでなく審査期間での審査には時間がかかるため、着工日は余裕を持って設定しておくことが望ましいでしょう。

天空率を計算する際の3つの
ポイント

天空率を計算する際の3つのポイント
天空率を計算する際の
3つのポイント

天空率では、建築確認申請時から数値が少しでも変わる場合、再申請を行わなければなりません。申請時と実際の建築物の数値が違うと完了検査も通りません。

完了済証発行のためにも、計画変更など再度申請します。この時、再計算や図面の修正などの作業も伴うケースがあります。

また、他にも天空率を計算する際の3つのポイントをご紹介します。

  • 審査基準は自治体によって異なる
  • 計画建築物の天空率が適合建築物以上になることが基準
  • 計算にはCADソフトや解析ソフトを用いるのが一般的

それぞれのポイントについて詳しく見ていきましょう。

― 審査基準は自治体によって異なる

天空率の計算方法は、基本的には建築基準法に基づいています。しかし、具体的な算定方法や基準には「JCBA方式」と「東京都方式」の大きく2つの方式があります。

天空率の審査では、JCBA方式と東京都方式のいずれかが使われますが、自治体によってどちらが使われるか異なります。東京都内でも、東京方式を採用する地区もあれば、JCBA方式でなければ審査をしてもらえない地区もあります。

あらかじめ、申請予定の地区ではどちらの方式が採用されているのかを自治体に確認した上で計算に取り掛かりましょう。

JCBA方式

JCBA方式とは、日本建築行政会議が規定している計算方式です。計算方法が広く普及しているので資料やソフトも多く、比較的計算のしやすい方法です。ただし、敷地形状が不規則な場合、計算がより煩雑になる傾向があります。

東京都方式

東京都方式は、東京都独自の方式で、複雑な敷地形状にも対応可能です。敷地形状を単純化することで計算を簡略化するため複雑な敷地形状でも計算が比較的簡単にできます。

ただし、計算が簡略化されるため、実際の建築物の形状との間に誤差が生まれる可能性もあります。

― 計画建築物の天空率が適合建築物以上になることが基準

適合建築物の天空率が審査の基準となるため、計画建築物の天空率が適合建築物の天空率を下回る場合、不適合となります。

適合建築物の天空率以上の数値が出なければ、計画建築物の室内に十分な光と風が取り込めないと判断されるためです。また、周辺の建築物への日影の影響も大きくなると見なされます。

適合建築物を正確に設定した上で、計画建築物の天空率を計算しましょう。

― 計算にはCADソフトや解析ソフトを用いるのが一般的

天空率の計算は、CADソフトや解析ソフトを用いるのが一般的です。しかし、天空率の計算は非常に複雑なため、CADソフトや解析ソフトを使用しても算定に苦労する設計士の方も多くいらっしゃいます。

よく使用されるソフトとしては、AutoCADやArchiCADなどがあります。これらのソフトは、建築物の3Dモデルを作成して、そのモデルに基づいて天空率を計算します。天空率計算におけるソフトを選ぶ際は、天空率計算の手順が比較的わかりやすく操作性の高いものを選びましょう。

しかし、設計士でさえ苦戦する天空率計算です。深い専門知識のない方が計算をすると計算ミスが発生し、建築確認申請での遅れが生じて着工に間に合わないといった事態を招く可能性があります。

着工の遅れはお客様との信頼関係や会社の信用性にも影響が出るでしょう。スケジュール通りに進めるためにも、天空率計算の得意な外注先への依頼をおすすめします。

複雑な天空率計算は
「上岡祐介建築設計事務所」に
お任せください

複雑な天空率計算は、深い専門知識を持ち、天空率の計算に慣れた方でなければ設計図書の作成が難しい場合が多いです。他の業務もストップさせて計算しなければならないため、納期の遅れも出てくる可能性もあるでしょう。

そのような悪循環に陥らないためにも、天空率計算の得意な専門家へ計算を任せることをおすすめします。

「天空率の検討をしてもらいたい」
「現状プランで天空率をクリアできるか見てほしい」

そんなご相談がある方は、ぜひ上岡祐介建築設計事務所へご相談ください。

― 有資格者を中心とした専門チームが柔軟に対応

当社は、20年にわたる設計業務の中で数多くの天空率検討を行ってきました。様々な形状・条件の建築物の天空率を計算してきた実績があるため、様々なプランにおいて高い対応力があると自負しております。

物件ごとに担当が付きますが、チームによって柔軟な対応をさせていただいております。当社には一級建築士が4名、二級建築士が3名在籍しており、有資格者を中心とした専門チームで対応するため、正確な計算結果をお届けいたします。

― 年間300棟以上の実績に基づく確かな問題解決力

当社では、日影計算や天空率計算などの検討に関わる業務を年間300棟以上手がけています。

【天空率 2024年実績の一部】

共同住宅

埼玉県さいたま市

RC造

3827.93㎡

天空率

共同住宅+飲食店

東京都渋谷区

RC造

1440㎡

天空率

ホテル

東京都中央区

RC造

9994㎡

天空率

共同住宅

新潟県新潟市

RC造

5017.39㎡

天空率

戸建住宅

兵庫県宝塚市

木造

195.24㎡

天空率

マンション、オフィスビル、一般住宅など、様々な用途や規模の建築物に対応してきた実績があるため、プランニングの初期段階からお手伝いすることが可能です。

このような実践的な提案と問題解決力は、20年以上にわたる実務経験と数多くのプロジェクト実績があってこそ実現できるものです。天空率検討でお悩みの方は、ぜひ上岡建築設計事務所にご相談ください。