日本は2050年のカーボンニュートラル達成を実現するために、住宅のエネルギー消費削減に向けて積極的な取り組みを行っています。
今後の取り組みとして実施が予定されているのが、省エネ基準適合の義務化です。
2025年4月からは、すべての建築物に対して省エネ基準の適合が義務付けられるため、基準に達しない建物は建築できなくなります。
さらに2030年度には、省エネ基準が「ZEH(ゼッチ)」の水準まで引き上げられる予定です。
ZEH基準は年間の一次エネルギー消費量を実質ゼロにすることを目指すため、住宅にはより厳しい水準が求められるようになります。基準の引き上げまで5年あまりということを考えると、将来を見据え、ZEH基準の住宅建築を検討するお客様が増加すると予測されます。
これに伴い、ZEHに関する問い合わせや相談を受ける機会が増えてくると考えられるため、求められる基準や補助金・支援策についての知識を深めておきましょう。
ZEHとは?
「ZEH(ゼッチ)」は、net Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の略であり、「エネルギー収支をゼロにする家」のことです。家庭で消費されるエネルギーと、太陽光発電などによって生み出されるエネルギーを均衡させ、年間のエネルギー消費を実質ゼロにする住宅を指します。

ZEHは「革新的な省エネ住宅」として2008年頃のアメリカで注目され始めました。
日本においては、2014年4月の「第4次エネルギー基本計画」で「2020年までに標準的な新築住宅で、2030年までに新築住宅の平均でZEHの実現を目指す」という政策目標を設定しています。
ZEHの実現には、従来の住宅と比べてエネルギー消費を大幅に削減する必要があるため、建物全体の断熱性能向上や高効率な設備機器の導入が必要です。
これにより、一年中快適な室内環境を保ちつつ、エネルギー使用量を最小限に抑えることを目指しています。
― 2030年までにZEH基準の適用が義務化される?

政府は、2021年10月に閣議決定された目標に基づき、「2030年度以降に新築されるすべての住宅で、ZEH基準相当の省エネルギー性能を確保する」ことを目指しています。これにより、2030年までにZEH基準の適用が義務化される可能性が高まっています。
ZEH普及のため、政府はさまざまな取り組みを進めており、その一環として「ZEHマーク」の導入が注目されています。2017年からは建築物省エネルギー性能表示制度(BELS)において、ZEH基準を満たした住宅に「ZEHマーク」を表示することが可能となりました。
さらに、2024年4月からは、「省エネ性能ラベル」の表示が導入されました。このラベルにより、住宅の省エネ性能が視覚的にわかりやすく表示され、消費者がエネルギー効率の高い住宅を選びやすくなる仕組みが整備されています。

ZEHの4つの基準

「ZEH(ゼッチ)」の基準には、以下の4つが定められています。
- 1.外皮性能基準(UA値)
- 2.基準一次エネルギー消費量の削減
- 3.再生可能エネルギーの導入
- 4.エネルギー収支ゼロの実現
― 1. 外皮性能基準(UA値)
「ZEH(ゼッチ)」で満たすべき基準は、外皮性能基準(UA値)を満たすことが必須です。UA値は、建物の断熱性能を示す指標であり、値が低いほど外気の影響を受けにくい、高断熱な住宅となります。
地域ごとに異なる基準が定められており、寒冷地ほど厳しい数値が求められ、たとえば北海道では0.4以下、東京では0.6以下の基準が設定されています。
省エネ基準より強化した高断熱基準(外皮平均熱貫流率の基準例)
地域区分
1・2地域
(札幌等)
3地域(盛岡等)
4地域(長野等)
5・6・7地域
(東京等)
ZEH基準
0.4
0.5
0.6
0.6
省エネ基準
0.46
0.56
0.75
0.78
地域
区分
1・2地域
(札幌等)
3地域
(盛岡等)
4地域
(長野等)
5・6・7
地域
(東京等)
ZEH
基準
0.4
0.5
0.6
0.6
省エネ
基準
0.46
0.56
0.75
0.78
断熱材は隙間なく均一に施工し、気密性を高めることで、断熱効果を最大限に引き出すことができます。さらに、開口部には樹脂サッシやトリプルガラスなど、高断熱性能の製品を採用することで、冷暖房効率を向上させ、長期間にわたり室内温度を一定に保つことができます。
― 2. 設計一次エネルギー消費量の削減
ZEHのもう2つ目の基準は、設計一次エネルギー消費量を基準よりも20%以上削減することが必要です。
一次エネルギーとは、石油や天然ガスなどの自然エネルギーを直接利用するものであり、冷暖房、給湯、照明などの効率的な機器選定などが求められます。
この削減目標を達成するためには、高効率な設備を導入し、断熱性能を高めることで、冷暖房や給湯エネルギーの無駄を最小限に抑えることが重要です。
― 3. 再生可能エネルギーの導入
ZEH基準を満たすためには、太陽光発電システムなどの再生可能エネルギーを活用して自家発電を行うことが求められます。太陽光パネルの設置により、家庭内の電力を賄うことができます。さらに、余剰電力を売電することで、一次エネルギー消費量「正味ゼロ」を目指すことが可能です。
また、「ZEH Oriented(ゼッチ オリエンテッド)」と呼ばれるZEH基準のうちの1つでは、再生可能エネルギーの導入が必須ではありません。これは都市部や多雪地域の太陽光発電が難しいエリアに適した仕様になっています。この場合でも、指定された外皮性能基準と一次エネルギーの削減に適合する必要があります。
― 4. エネルギー収支ゼロの実現
ZEHの最終目標は、建物の年間一次エネルギー消費量をゼロ、またはゼロ以下にすることです。これは、高効率な設備の導入と、再生可能エネルギーによる創エネルギーで達成されます。
そのためには、一次エネルギー消費量を可能な限り抑えつつ、太陽光発電などによる創エネルギー量を最大化する必要があります。各基準の達成度を正確に評価するには複雑な計算が必要となり、高い専門性が不可欠です。
正確な評価を確実に行うためには、専用の計算プログラムを活用することや経験豊富な代行業者に依頼することも検討しましょう。
ZEH導入のメリット・デメリット

「ZEH(ゼッチ)」のメリットとデメリットを、以下にご紹介します。
― ZEHのメリット
ZEHのメリットは、以下が挙げられます。
- 省エネ効果が高くなることにより光熱費を抑えることが可能であり、太陽光発電などの創エネで余剰電力を売電した場合、収入を得られる
- 省エネ効果の高さで室温を一定にキープできるため、夏涼しく冬暖かく、ヒートショックを防ぐ効果がある
- 災害などにより停電した場合でも、太陽光発電や蓄電池を活用することにより安心した生活を送れる
- 太陽光発電機器の価格は年々低下しているので採用しやすい
― ZEHのデメリット
ZEHのデメリットは、以下が挙げられます。
- 省エネや創エネ設備が必要なので新築コストが高くなる
- 省エネ性能の基準をクリアするために間取りや設備に制限が出る場合がある
- 設置した省エネや創エネ設備のメンテナンスや交換の費用がかかる
- 天候により太陽光発電の発電できる量が変化し天候が悪い場合は発電量が減る
2024年の【ZEH】補助金・支援制度

出典:ZEH補助金
ZEH(ゼッチ)関連の補助金や支援制度は、政府が進める省エネルギー推進政策の一環として、住宅のエネルギー効率向上を目的に展開されています。以下に、主要な補助金制度を紹介します。
― 戸建住宅 ZEH化等支援事業
ZEHまたはZEH+の基準に適合する戸建住宅の建築を計画している場合、「戸建住宅ZEH化等支援事業」という補助金制度を利用できます。戸建住宅が「ZEH」の基準を満たしており、ZEHビルダー/プランナーが関与(建築、設計又は販売)している場合、55万円/戸が交付されます。
さらに、以下の基準を満たしている場合は、100万円/戸が交付されます。
基準
条件
更なる省エネルギーの実現
省エネ基準から25%以上の一次エネルギー消費量削減
再生可能エネルギーの自家消費
拡大措置の導入
1.外皮性能の更なる強化
2.高度エネルギーマネジメント
3.電気自動車(PHV車を含む)を活用した自家消費の拡大
措置のための充電設備又は充放電設備
※2つ以上
基準
条件
更なる省エネルギーの実現
省エネ基準から25%以上の
一次エネルギー消費量削減
再生可能
エネルギーの自家消費拡大措置の導入
1.外皮性能の更なる強化
2.高度エネルギーマネジメント
3.電気自動車(PHV車を含む)を活用した自家消費の拡大 措置のための充電設備又は充放電設備
※2つ以上
また、以下の設備機器を導入した場合は補助金が加算されます。
- 蓄電システム
- 直交集成板(CLT)
- 地中熱ヒートポンプ・システム
- PVTシステム(太陽光発電パネルと太陽熱集熱器が一体となったもの)※方式、パネル面積により異なる
- 液体集熱式太陽光利用システム※パネル面積により異なる
― 集合住宅の省CO2化促進事業
集合住宅の省CO2化促進事業は、ZEH-Mの基準を満たした集合住宅の新築を対象にした補助金事業です。補助金額は、集合住宅の規模によって以下のように分かれています。
集合住宅の種類
補助金額
低層(住宅用途部分が1~3層)
1戸あたり40万円
中層(住宅用途部分が4~5層)
補助対象経費の1/3以内
高層(住宅用途部分が6~20層)
補助対象経費の1/3以内
集合住宅の種類
補助金額
低層
(住宅用途部分が
1~3層)
1戸あたり
40万円
中層
(住宅用途部分が
4~5層)
補助対象経費の
1/3以内
高層
(住宅用途部分が
6~20層)
補助対象経費の
1/3以内
また、以下の設備機器を導入することで補助金額が加算されます。
- 蓄電システム
- EV充電設備
- V2H充電設備(充放電設備)
- 直交集成板(CLT)
- 地中熱ヒートポンプ・システム
- PVTシステム※方式、パネル面積により異なる
- 液体集熱式太陽熱利用システム※パネル面積により異なる
― 補助金の申請には認定が必要
「ZEH(ゼッチ)」関連の補助金を受け取るためには、公募期間以内に補助金の申請をし、認定してもらわないといけません。申請すればだれでも補助金を受け取ることができるわけではなく、審査をされ通過した場合のみ認定となります。
ZEH住宅の補助金申請は、一般の方には難しい内容となっております。
申請する住宅は、登録した設計事務所や工務店、ハウスメーカーなどのZEHビルダーやプランナーが関与する住宅であることが条件となっています。(ZEH-Mの申請には、ZEHデベロッパーによる事業または係る事業であることが条件となります。)申請を代行してもらうことも一般的ですので、ZEHの申請を決めたら、まずは認定ビルダー・プランナー等に相談することをお勧めします。
ZEH申請の手続きと注意点

ZEH申請の手続きと注意点を、以下にご紹介します。
― ZEH申請に必要な手続き
ZEH申請の手続きと注意点を、以下にご紹介します。
- 1.設計や補助金の申請
- 2.補助金の審査・交付通知
- 3.工事着工
- 4.中間報告
- 5.事業完了・補助金の実績報告書を提出する
- 6.補助金が入金される
― 補助金を申請する際の注意点
ZEH申請には、いくつかの注意点があります。
- 併用できない補助金がある
- 申請や着工期限が過ぎると補助金の対象外になる
- 着工済の場合、補助金は交付されない
- ZEHビルダー/プランナー登録が完了しないと、補助金が交付されない
- 予算上限に達した場合は補助金が交付されない
- 補助金申請後に間取りや設備の変更はできない
― 省エネ計算を代行業者に依頼するメリット
省エネ基準に適合するための計算は非常に複雑で、特にZEH住宅では厳格な基準を満たす必要があります。そのため、省エネ計算を専門業者に依頼することも有効な選択肢です。
上岡祐介建築設計事務所では、意匠設計事務所として省エネ計算を行っており、設計上の納まりなどを事前に考慮しながら断熱性能の検討を進めています。
また、計算を開始する前にお客様の目標値をお聞きしているため、目標値に届かない場合でも、早い段階で改善案をご提案できます。
さらに、設計段階からの断熱検討にも対応しており、事前に検討した内容を実施設計に反映させることが可能です。これにより、お客様の手間や時間を省くことができますので、省エネ計算の依頼先でお悩みの方は、ぜひ上岡祐介建築設計事務所にお任せ下さい!
