あっという間に省エネ適判コラムも第三回目となりました。
今回は、省エネ計算のプロでも悩む省エネ適判の増改築について!
省エネ適判の増改築は判断が少し複雑です・・・既存建物次第で提出書類も基準数値も変わってくるって知っていますか?
これを見れば「省エネ適判が分かる!」をモットーに、省エネ適判の増改築を詳しく解説していきます。
適合対象となる増改築はこちら
省エネ適判の増改築は判断が少し複雑です。
新築の場合は判断しやすいのですが、増改築となると、増改築部分の床面積と増改築後の全体の床面積、非住宅・住宅部分の床面積の条件によって、省エネ適判か届出なのかが分かれてきます。
また、既存部分の竣工年月日も、計算するうえで大きく影響が出てきます。
提出する際は、以下の判断フローを参考に判断してください。(※増改築を行う建築物の非住宅部分の床面積は、高い開放性を有する部分の床面積を除きますのでご注意下さい。)増改築を行う場合は、増改築の対象とはならない既存建築物の部分も含めた建物全体での評価・申請が必要となります。
増改築の判断フロー
特定建築行為とは?
特定建築行為って言葉は知っていますか?
高い開放性を有する部分の床面積を除いた部分の床面積が300㎡以上の非住宅建築物を「特定建築物」といいます。
この特定建築物の新築・増築・改築(増改築は非住宅部分が300㎡以上であるもの)または、特定建築物以外の建築物の増築のことを指します。
この2つのワードは省エネ法でよく出てくる用語なので、覚えておくと良いでしょう。
特定増改築とは?
特定建築物・特定建築行為に続き、こちらも聞いたことがあるのではないでしょうか?
中大規模の非住宅に係る特定建築行為には、建築物省エネ法附則第3条より”適合義務は不要とし、代わりに届出を求める”といった緩和措置が設けられています。
この緩和措置の対象となるのは、特定建築行為に該当する増改築のうち、平成29年(2017年)4月1日の時点で現に存する建築物の増改築で、
増改築部分(非住宅部分に限る)の床面積が増改築後の特定建築物(非住宅部分に限る)の延べ面積の1/2以下であるものを指します。
この2つの条件が当てはまらなくては、緩和措置の対象にはなりません。
増改築の判断例
では、例として実際に様々なケースを想定してみましょう。
省エネ適判となるケース
- 非住宅部分の増改築面積が300㎡以上
- 平成29年(2017年)4月以降に新築された建築物の増改築
- 平成29年(2017年)4月時点で現に存する建築物で、増改築部分の床面積が増改築後の延べ面積の1/2を超えるもの。
届出となるケース
- 300 ㎡以上の増改築を行う場合
- 平成29年(2017年)4月時点で現に存する建築物で、増改築部分の床面積が増改築後の延べ面積の1/2以下となるもの。
説明義務となるケース
- 300㎡未満の既存の住宅・非住宅建築物について 10 ㎡を超える増改築。
増改築時の基準について
新築の省エネ適判ではBEI=1.0以下が基準値適合となりますが、増改築を行う場合には既存部分も含めた建築物全体での省エネ計画を提出する必要があります。
ここで少し気を付けなければならないのが、適合義務の判断と基準適合の判断です。
適合義務の判断では、既存部分が平成29年(2017年)4月1日時点で現に存する建築物か否かで省エネ適判の対象となるかどうかが変わってきますが、
基準適合の判断は、平成28年4月1日時点で現に存する建築物の増改築の場合BEI≦1.1となれば基準値適合とみなされ、平成28年4月1日後に建築された建築物の増改築の場合はBEI≦1.0となります。
判断基準のキーとなる日付は近いこともあり間違えやすいので、皆さまお気を付けくださいね!
なお、増改築の場合は以下の方法により省エネ性能の算定ができます。
Case1.既存建築物が H28.4.1 時点で現に存する建築物である場合の省エネ性能の算定
- 基準緩和の対象となり、既存部分のBEIは当分の間デフォルト値として1.2と設定できる
- 建物全体のBEIは、既存部分のBEIと増改築部分のBEIの面積按分で算出可能。
建築物全体の BEI = 1.2 × Sa /(Sa + Sb) + 増改築部分の BEI × Sb /(Sa + Sb)
Sa : 既存部分の床面積(㎡)、Sb : 増改築部分の床面積(㎡)
Sa 及び Sb は、高い開放性を有する部分や計算の対象とならない部分も含めた床面積
⇒建物全体でBEI≦1.1となればよい。
~例えば~
既存部分(H26竣工)2,500㎡/増築部分(新築)4,000㎡
(※新築部分のみのBEI=0.9とする)
の建物のBEIは、上記計算式に当てはめると
1.2×2,500/(2,500+4,000)+0.9×4,000/(2,500+4,000)
となり、建物全体のBEIは1.015となる。
既存部分はH26年築なので、建築物全体の基準適合の判断はBEI≦1.1。
1.1>1.015 よって、この建物は基準値適合と判断される。
Case2.既存建築物が H28.4.1 よりも後に新築された建築物である場合の省エネ性能の算定
- 既存部分のBEIは当分の間デフォルト値として1.1と設定できる
- 建物全体のBEIは、既存部分のBEIと増改築部分のBEIの面積按分で算出可能。
建築物全体の BEI = 1.1 × Sa /(Sa + Sb) + 増改築部分の BEI × Sb /(Sa + Sb)
Sa : 既存部分の床面積(㎡)、Sb : 増改築部分の床面積(㎡)
Sa 及び Sb は、高い開放性を有する部分や計算の対象とならない部分も含めた床面積
⇒建物全体でBEI≦1.0としなければならない。
既存部分の仕様を精査し、建物全体でBEIの算定を行うことにより既存部分をデフォルト値以外の数値に設定する事もできますが、
その場合は完了検査時に既存部分も検査の対象となります。
デフォルト値を利用する場合は完了検査は対象外となりますが、適合の判断は建物全体での評価となるため(実際の数値を利用するよりも大きい数値となっているため)
増改築部分の数値があまり良くない場合などは、前回数値を利用する方が良いかもしれません。
省エネ性能の算定の考え方まとめ
平成 28(2016年)年 4 月 1 日時点で現に存する建築物の増改築 | 平成 28 年(2016年)4 月 1 日後、平成 29 年(2017年)4 月 1 日以前に建築された建築物の増改築 | 平成 29 年(2017年)4 月 1 日後に建築された建築物の増改築 | |
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適合義務の判断 | 増改築のうち非住宅部分の面積が 300㎡ 以上かつ増改築後の非住宅部分の床面積が 300㎡ 以上であり、増改築面積が増改築後の非住宅部分の全体面積の1/2超の増改築の場合であれば基準適合義務の対象。 | 増改築のうち非住宅部分の面積が300㎡以上かつ増改築後の非住宅部分の床面積が300㎡以上であれば、基準適合義務の対象。 | |
既存部分のBEIの算出 | BEI=1.2 | BEI=1.1 | |
※増改築部分全体が計算対象とならない場合は本来は BEI を算出することは出来ないが、便宜上、増改築部分の BEI を 1.0 として建築物全体を評価してもよい。 | |||
増改築部分のBEIの算出 | 増改築部分の外皮及び設備の仕様を入力して BEI を算出する。 | ||
建築物全体の基準適合の判断 | BEI≦1.1となれば基準値適合! | BEI≦1.0となれば基準値適合! |
増築の場合の添付資料
審査機関に提出する資料(計算書や設計図書等)は、基本的に通常の省エネ適判や届出と同様と考えて問題ありません。
既存部分については、前回の省エネ計画書の結果を使用するか、デフォルト値を使用して面積按分するかどちらでも選択可能ですが、
省エネ計画書の結果を使用するなら、前回の計画書(計算書)も添付してください。
また、デフォルト値で計算を行う場合も、竣工年月日が分かる資料(検査済証)を用意する必要があります。
何度も増改築を繰り返している建築物は建築履歴が分かる書類が必要になってきます。
どちらにせよ、審査機関は既存建築物の竣工日が分かる根拠資料を求めるのです。
提出する図書に記載されたBEIを設定する場合の増改築時提出書類
- 建築物エネルギー消費性能確保計画の副本及び適合判定通知書、またはそれらの写し
- 所管行政庁による受理印が押印された、または受理した旨が示された書面・記載(受付番号等の記載を含む。)がある届出書又は通知書の副本またはその写し
- 建築物エネルギー消費性能向上計画に係る認定申請書の副本および認定通知書またはそれらの写し
- 建築物のエネルギー消費性能に係る認定表示申請書の副本及び認定通知書またはそれらの写し
- 低炭素建築物認定申請書の副本および認定通知書またはそれらの写し
- BELS評価書および申請図書(非住宅部分の全てを評価しているものに限る。)またはそれらの写し
こんな場合どうするの?
ここからは、よくある質問をまとめてみました。
より実践に近い疑問点なので、ご自身で計算をされる方は参考にしてみてください。
特定増改築かどうかってどうやって判断してるの?
分かりやすく、例を出して考えてみましょう。
例えば、H28.4月以前に存している300㎡の建築物に新たに900㎡増築するとします。
- 増築部分が900㎡かつ、増築後の非住宅部分300㎡+900㎡=1200㎡
→特定建築行為に該当します。 - 今回は平成29年(2017年)4月1日の時点で現に存する建築物の増改築となるため
=特定増改築かどうかの判断を行う必要がある - 増改築部分 900㎡:増改築後延べ面積 1200㎡
「増改築部分の床面積」が「増改築後の延べ床面積」の1/2を超えるため
→特定増改築には該当しない
つまり、エネ適合性判定は必要となります。
既存建築物の増改築時における既存部分の評価方法ってどうやるの?
省エネ適判の計算では、大多数がモデル建物法を利用していると思います。
そのためご存知の方も多いと思うのですが、モデル建物法入力支援ツールにおいては複数用途集計ツールを使用して「既存部分床面積」を入力することで、
既存部分を含めた BEI を自動的に算出することができます。
増改築時においては、既存部分の BEI と増改築部分のBEIを入力し面積で按分することで建築物全体の評価することになっています。
少し前の記事に増改築時の計算式を記載してますが、モデル建物法入力支援ツールを活用することで、わざわざ手間と時間をかけて自分で計算をしなくても、
既存部分の床面積とBEI、増改築部分の床面積を入力することで、自動的に建物全体の計算結果が出てくるのです!
増改築の省エネ計算はやったことが無い人でも、これなら簡単にできますよね!ぜひお試しください。
既存建築物の外壁を撤去して増築した場合の計算の考え方
建物間を渡り廊下などで接続するような増築もあれば、既存部分の室の外壁を撤去し、その隣に増築し1つの室とするケースもあります。
増築で1つの室を大きくしたような場合は、どのように計算をしていくか分かりますか?
下の図を参照ください。
1つの室に既存部分と増築部分が存在することになるので、仮想境界を設定して、既存部分は既存部分として、増築部分は増築部分としてそれぞれの面積に含み計算を行っていくのです。
既存建築部分がすでになくなっている場合は?
過去に撤去が行われ、基準日以前から存在していた建築物の部分がすでになくなっている建築物であっても、基準日以前から存在している建築物であれば「現に存する建築物」として扱うことが可能です。
例えば、上の図で考えていきましょう。
建物B(既存建築物)は、建物A部分はすでに撤去されているものの、H28.4月以前に存している建築物であり、「増改築部分の床面積」が「増改築後の延べ床面積」の1/2以下のため、特定増改築には該当しません。
つまり、省エネ適合性判定は不要(届出は必要)となります。
複数回にわたり増築をくり返す場合でも、一回の増築ごとに特定建築行為に該当するかどうか、該当する場合は特定増改築に該当するかどうかを判断していきます。
既存部分の築年数が浅い場合(既存部分のBEIを実際の数値とする場合)
築年数が浅い建築物は前回の計算結果が自分(もしくはお施主様の)の手元にあるかと思います。
増改築の計算では、既存部分のBEIの設定を前回の適合性判定時のBEIに設定することもできるので、前回のBEIを利用する方も多いのではないでしょうか?
デフォルト値はどうしても不利側でみてますので、実際の数値を利用した方が建物全体の数値も有利に働きますよね!
既存部分を実際の数値とした場合の提出書類としては、
①前回の特定建築行為の検査済証の写し(検査済証の交付日が平成28年4月1日以降であることが確認できるものに限る)、
②前回の省エネ適判の計画書の副本、及び適合判定通知書またはそれらの写し
が必要になります。
前回の省エネ適合性判定を行った審査機関に今回も提出する場合は、もしかすると審査機関から一部の図書や資料は提出不要と言われることもあるかもしれません。
その場合は、必ずしも提出する必要はありません。
なお、既存部分のBEIを実際の数値とすると完了検査時に既存部分も検査の対象となりますので、予めご注意くださいね!
まとめ
省エネ適判の増改築、初めは少し複雑ですが、注意するポイントさえ掴めばそんなに難しいものではありません。
これを読んで、いつもは省エネ計算代行会社を利用している方も、自分でやってみようという気になったのではないでしょうか?
もちろん、建築物の造りによっては計算が複雑な場合も多々あります。
そんな時は、やはり省エネ計算のプロに任せる方が手間も無く安心ですよね!弊社でも代行・サポートさせていただきますので、ぜひ気軽にお問い合わせください。
もちろん、お見積りでなくても、省エネ計算のプロに聞いてみたいことや知りたいことなどがあれば気軽にご相談くださいね。