前回のコラムで省エネ適判の全体感がつかめたと思いますが、ここからはより具体的に、実例を踏まえながら解説していきたいと思います!
複合建築物って、ちょっと判断に困りますよね。届出なのか省エネ適判にあたるのか・・・どこに何を提出すれば良いのやら・・・
省エネ適判コラム第2回目となる今回は、複合建築物の取り扱いについてピックアップしてみました。
複合建築物は住宅部分と非住宅部分の面積によって取り扱いが変わる!
2021年4月より、300㎡以上の非住宅建築物については、省エネ基準への適合が求められるようになりました。
この“300㎡以上“とは建築確認上の延床面積とは異なり、「高い開放性を有する部分の床面積を除いた部分の床面積」を指しますので、非住宅用途の場合は比較的分かりやすいのですが、住宅・非住宅のどちらも有する建築物の場合、住宅部分を除いた非住宅部分の床面積で判断することになります。
非住宅部分が300㎡以上か否かによって適合義務か届出義務の対象になるかが変わってきます。
複合建築物の判断例
では、例として実際に様々なケースを想定してみましょう。
省エネ適判+届出 のケース
この場合、非住宅部分は400㎡あるので省エネ適判の対象となり、所管行政庁または登録省エネ判定機関(以下、民間審査機関)へ省エネ計画を提出する必要があります。
住宅部分は300㎡以上となるので、所管行政庁の指示の対象となり、届出する必要があります。
民間審査機関へ提出する場合は、正本・副本・正本の写しの合計3部を提出します。
住宅部分の届出に関しては、民間審査機関より住宅部分を含めた省エネ計画の写しを所管行政庁へ送付することとされているため、お客様の方で別途届出を行う必要はありません。ですので、建築物省エネ法第19条にある「工事着手21日前」は適用されないという認識で良いでしょう。
また、この場合は民間審査機関が非住宅部分、計画の写しを送付された所管行政庁が住宅部分の審査を行うことになります。
仮に住宅部分の省エネ計画が基準値に満たなかったとしても、非住宅部分が適合していれば省エネ適合判定通知書は交付されますが、計算結果の数値によっては所管行政庁より指示・命令が出る場合もありますので、住宅・非住宅関係なく、なるべく基準値に適合するよう努力しましょう。
届出のみ になるケース
この場合、非住宅部分は100㎡のため省エネ適判は不要となりますが
建物全体で300㎡を超える規模となるため、所管行政庁または民間審査機関へ省エネ計画の届出が必要となります。
説明義務 になるケース
この場合も、非住宅部分は100㎡のため省エネ適判は不要となります。
また、建物全体の床面積の合計も300㎡以下の規模となるため、省エネの届出も対象外となります。
ただし、2021年4月より始まった建築主への省エネ性能の説明義務は必要となりますので、ご注意ください。
省エネ適判のみ のケース
この場合、非住宅部分は400㎡あるので省エネ適判の対象となり、所管行政庁または登録省エネ判定機関(以下、民間審査機関)へ省エネ計画を提出する必要があります。
ただし、このような複合建築物の場合は建築物全体として特定建築物(非住宅部分の床面積が300㎡以上の建築物)に該当するため、当該住宅部分についての説明義務は対象外となります。
複合建築物の基準適合の判断
特定建築行為に係る複合建築物の計算においては、住宅・非住宅それぞれの計算方法で計算し、それぞれ基準に適合しているかで判断していきます。
要は、非住宅部分と住宅部分は別々の建物とみなして計算をするのです。
省エネ適判に該当しない複合建築物の場合は、先程と同様に住宅・非住宅それぞれの計算方法で計算しますが、住宅部分の外皮性能が基準に適合していること・一次エネルギー消費量は非住宅部分と住宅部分(共用部は任意※)を合算したものが基準に適合していることでも適合判断することができます。※住宅の共用部の評価を省略される場合は、基準値判断の合算には含みません。
非住宅の計算方法で一般的に多く使われている「モデル建物法」ですが、住宅の共用部の計算では使用することができないため(標準入力法による計算が必要となります。)注意が必要です。
最近では、省エネ届出や省エネ適判において申請図書や各種計算書等を省略できるため、BELSの評価申請をする方が増えてきていますが、BELSは住宅部分の外皮性能と住宅・非住宅部分の一次エネルギー消費量を合算したものが基準に適合していることが前提となっていますので(省エネ基準に適合しない場合は表示マーク、評価書の交付を受けることができません。)省エネ適判とともにBELS申請などを検討されている方はお気をつけください。
なお、余談ではありますが、BELS申請では「小規模版モデル建物法」やモデル住宅法」「フロア入力法」などは使用できませんので併せてご注意くださいね!
ここだけは!計算時に押さえておくべきポイント!
さて、ここまでは申請業務に係わる事項を述べてきましたが、ここからは少し実践的なことを紹介していきたいと思います。
複合建築物の計算を進めていくうえで、気を付けていきたいポイントや判断に迷いやすい部分を挙げてみました。(ここでは、主にモデル建物法での手法を前提に紹介していきます。)
Case1.非住宅用途が複数ある建物
非住宅用途が複数存在する建築物は、建物用途毎に計算が必要になり、用途毎の評価結果をもとに建物全体での評価を行っていきます。
(ですので、申請時には計算書も用途の数だけ添付する必要が出てきます。)
モデル建物法での計算を行う場合、確認申請書(第四面)に記載される用途区分コードによりモデル建物を選択しますが、ゴルフ練習場や水泳場など、用途の名称が異なっていたとしても、用途区分コードが同一の場合は同モデルで算出します。
逆に、幼稚園・特別支援学校・大学などは、学校モデルと講堂モデルの2つ、モデル建物の選択肢があります。
これは「講堂あるいはそれに類する用途に供する部分を有する場合、当該部分は講堂モデルを適用する」ことが定められているため、ホールなどが付随されている学校などはモデル建物を分ける必要が出てきます。
学校の造りやその室の使い方によっては、計算用途が2つ(複数用途)になってきます。
Case2.複数用途がある建物の天井・壁・床の境界部の計算
「非住宅×非住宅」
それぞれの用途毎に計算を行い、外皮については外気に接している部分が入力の対象となります。
なので、用途①と用途②の境界部分に天井・壁・床があれば、そこは外皮計算には含みません。
「住宅×非住宅」
複合建築物の住宅部分と非住宅部分の境界部となる天井や壁や床。
住宅部分と非住宅部分を仕切る壁については、隣接空間がどのようになっているかで扱いが変わります。
住宅側で考えた場合、非住宅の用途によってですが、店舗や事務所など空調されている用途は「住戸と同様の熱的環境の空間」とみなし、温度差係数を1~3地域では0.05、4~8地域では0.15とし、日射熱取得率の計算には含みません。(※外皮平均熱貫流率の計算には含みます。)
住宅部分と階下にある非住宅部分の間にある床も同様の考えで、階下の非住宅部分が住宅と同等の熱的環境であれば、「共同住宅における界床」、空調されていない場合には、「その他の床(温度差係数0.7)」として扱ってください。
Case3.共用部の計算
住宅と非住宅の複合建築物の場合、住宅専用部分は住宅として計算、非住宅専用部分は非住宅として計算していきますが、共用部はどちらの扱いになるか知っていますか?
(平成28年国交告第1376号より)
- 居住者以外の者が当該部分を利用すること。
- 当該部分の存する建築物における、居住者以外の者のみが利用する部分の床面積の合計が、居住者のみが利用する部分の床面積の合計より大きいこと。
上記を満たす部分は原則として非住宅部分として判断を行いますが、建築物の計画から想定される利用状況によっては状況に応じて判断することも可能となっています。
では、複数用途が混在している建物の場合はどうでしょう?
例えば、1階に店舗/2階に事務所のような建物があったとします。建物内に共用部はあるものの、1階から2階に上がるために使うような共用部の場合、主に使用するのは2階事務所となるため、事務所側の計算に含みます。
Case4.複数の非住宅用途からなる建物内共用部のEVの計算
Case3で述べた複数の非住宅用途からなる建物について少し補足していきます。
省エネ計算では確認申請書記載の建築物用途区分コードを確認して計算用途を判断しますが、その際、敷地全体を記入する第三面の主用途ではなく、第四面に記載の用途を省エネ計算の用途としています。
なので、複数の非住宅用途が存在し、かつ昇降機が設置されている建物の場合は、どの用途に昇降機が含まれているか確認してから計算を進めていきましょう。
Case5.複数用途にまたがる空調・給湯設備の按分
例えば空調機など、省エネ適判に該当する建築物は一定規模の建物なので、ビルなどの大規模な施設で使われるマルチエアコンや事務所や店舗、病院や福祉施設などでよく使われるパッケージエアコンなどの設備機器を導入されていることが多くあります。
これらの機器は、一台の室外機に対して数台の室内機がつなげられる作りになっています。
1用途のみであれば、単純に室外機の能力値を計算していけば良いのですが、室内機が別の計算用途の室にもまたがる場合は、この空調機の能力値を按分する必要がでてきます。
福祉施設が併設されている病院など、能力が大きい給湯器が設置されていることも多いかと思います。
給湯設備も空調機と同様の考え方で、用途がまたがる場合は按分し計算を進めていきます。
按分する場合は根拠資料が必要となりますので(無い場合は審査機関より求められます。)、お手元に無い場合は設備屋さんなどに事前に用意してもらいましょう。
Case6.特殊な建築物
建築物省エネ法では、その室の使われ方によっては評価の対象外とすることがあります。
標準的な使用条件を定めることが困難である部分や、常時使用されることが想定されないものは一次エネルギー消費量算出対象には含みません。
この対象外とする室として、冷凍室・冷蔵室・低温室(室全体が冷凍庫・冷蔵庫・定温庫であるものに限る)や、実験室・水族館・博物館(特殊な温熱環境、視環境を維持する必要がある室)などが挙げられます。
弊社の過去の案件で、大きな植物園の中に飲食スペースがある建築物の計算を行ったことがあります。
通常であれば植物園と飲食店舗で用途を分けたいところですが、飲食スペースは完全に壁で区切られているような独立しているかたちではなかった事と、植物園内全体に空調が効いている中の一区画だったため、その部分は植物園とみなされ計算対象外となったことがありました。
もちろん、植物園と併設されていたお土産屋さんはしっかり壁と扉で仕切られていたために、物販店舗として計算を行っています。
その室の使い方や作り方によってどの用途に当たるのか変わってきますので、建物用途が少し特殊な場合は、提出先の審査機関へ用途の判断が委ねられます。
ですので、計算を進める前に予め提出先の審査機関へ用途の確認を行った方が良いでしょう。
まとめ
様々な用途が含まれている場合、どこをどう計算していくか判断に迷うことも少なくありません。
用途が複数あるとその分計算も増え、手間も時間もかかるので、上手く省エネ計算代行会社を利用していきましょう。
もちろん、弊社でも代行・サポートさせていただきます!お見積りでなくても、省エネ計算のプロに聞いてみたいことや知りたいことなどがあれば、気軽にご相談ください。
普段からご自身で省エネ計算を行わないという方でも、知識として知っていることで、設計業務に活かしたり、建築工事をスムーズに進めることができるかもしれません。
今回の記事をうまく利用して、仕事の幅を広げていきましょう!