省エネの届出や性能評価を提出すると、必ず耳にする「省エネ基準」や「省エネ等級」。
ほとんどのお客様が省エネ基準や省エネ等級といった言葉は聞いたことがあっても、違いや数値など知っている人はあまりいないのではないでしょうか?
実際、上岡設計でも省エネ計算の代行業務をしていると、お客様によく聞かれます。
住宅性能評価などでは取得項目と同時に希望等級を聞かれる事もあるかと思いますが、皆さんは正しく理解していますか?
今回は、省エネ基準の正しいポイントをお伝えして、皆さんに少しでも省エネ計算について理解を深めてもらえたらなと思います。
そもそも省エネ基準とは?
省エネ基準とは、平成28年1月29日に公布された「建築物エネルギー消費性能基準等を定める省令」に定める建築物エネルギー消費性能基準のことをいいます。
Q.省エネ基準とはなにか。
A.平成28年1月29日に公布された「建築物エネルギー消費性能基準等を定める省令」に定める建築物エネルギー消費性能基準をいいます。
なお、令和元年に建築物省エネ法が改正されたことに伴い、基準省令も改正されました。
性能基準と仕様基準
省エネ基準に適合しているか否かを判定するには、「性能基準」と「仕様基準」の2つの方法があります。
性能基準とは、平成28年4月に施行された告示「建築物エネルギー消費性能基準等を定める省令における算出方法等に係る事項(平成28年国土交通省告示第265号)」のことで、外皮性能(外皮平均熱貫流率(UA(ユーエー)値)と冷房期の平均日射熱取得率(ηAC(イータエーシー)値))、および一次エネルギー消費量を計算して基準値に適合しているか否か判断します。一般的な「省エネ計算」では、この性能基準のことを指します!
一方、仕様基準とは平成28年4月に施行された告示「住宅部分の外壁、窓等を通しての熱の損失の防止に関する基準及び一次エネルギー消費量に関する基準(平成28年国土交通省告示第266号)」のことで、予め外皮や開口部の性能に関する基準(部位ごとの断熱仕様)と一次エネルギー消費量(設備の仕様)に関する基準が規定されているので、その基準に照らし合わせて判定します。
基準値適合とは?
建築物省エネ法では、省エネ基準(建築物エネルギー消費性能基準)、誘導基準、住宅トップランナー基準という3つの基準があります。省エネ計算で算出された数値が、この定められた基準と同じかそれ以下であれば「基準値適合」と見なされます。
外皮基準
住戸単位で基準への適否を判定する場合、まず外皮性能ですが、外皮平均熱貫流率(UA値)と冷房期の平均日射熱取得率(ηAC値)の両方基準に適合しなくてはなりません。
この外皮基準は、現在「住宅」のみに適用されます。
(※非住宅建築物でも外皮の計算は用いますが、基準適合は求められていません。)
一次エネルギー消費量基準
一次エネルギーとは、石油、石炭、原子力、水力、太陽光など自然から得られるエネルギーのことで、建物で使用するエネルギー消費量を一次エネルギー消費量に換算して評価を行います。
設計仕様(省エネ手法(省エネ建材・設備等の採用)を考慮したエネルギー消費量)が基準仕様(標準的な仕様を採用した場合のエネルギー消費量)よりも小さくなれば、基準値適合となります。
複雑な共同住宅の省エネ基準
共同住宅は住戸単位の評価方法のほかに、住棟単位で基準への適否を判断する評価方法もあります。
住棟単位で評価する場合、基準値も一般的な外皮基準値とは異なり、計算自体は住戸ごとに計算することに変わりはありませんが
全ての住戸の平均(外皮面積按分)が基準に適合する必要があります。
(この住棟単位での基準値は、一般的な基準値よりも数値は厳しくなっているので注意が必要です。)
フロア入力法を用いる場合も、外皮性能は住棟単位の基準値により適否を判断することとしていいます。
Q.フロア入力法とは?
A. 外皮性能の住棟評価(住棟単位外皮平均熱貫流率等)を適用し、(住戸単位の計算を要さず、)フロア・棟単位の情報入力により、簡易に住棟全体の省エネ性能を評価できるようにするものです。
フロア入力法を用いない場合、外皮性能の基準値と共用部分の評価について、以下の①~④のいずれかの組合せにより評価が可能です!
①外皮性能を「住戸単位」の基準値により適否を判断+共用部分を評価
②外皮性能を「住戸単位」の基準値により適否を判断+共用部分の評価省略
③外皮性能を「住棟単位」の基準値により適否を判断+共用部分を評価
④外皮性能を「住棟単位」の基準値により適否を判断+共用部分の評価省略
非住宅の省エネ基準
非住宅建築物の省エネ基準については、一次エネルギー消費量基準のみとなり、外皮基準の適合性は確認されません。
しかし、一次エネルギー消費量の計算には外皮に係る仕様等の入力が必須であり(工場・倉庫用途を除く)、仮に断熱仕様が甘い場合は一次エネルギー消費量基準にも影響が出てくるため注意が必要です。
また、複数用途が存在する複合建築物の場合は、それぞれの用途毎に一次エネルギー消費量の計算を行い、最後に計算結果を合算して建物全体の一次エネルギー消費量を算出します。
どちらか一方の用途が仮に1.0をオーバーしても、もう一方の用途の数値が低く、合算した場合に1.0を切っていれば、その建物は基準値適合となるのです。
省エネ基準は地域によって違う?
日本は南北に長く緯度の差が大きい為、北は北海道から南は沖縄まで多様な気候特性を有しています。
ほとんどの地域が温帯に属していますが、冬の気温がものすごく低くなる亜寒帯に属する北海道や東北地方、一年中気温が高い亜熱帯に属する沖縄県など、地域によって外気温が大きく異なります。
また、南北に延びる山脈の影響で降水量は多く、四季が明確で日射量にも恵まれているのも日本の特徴です。
このような特徴(外気温や標高等)を加味して、省エネ計算では全国を8つの地域に分類し、地域によって水準を定めています。
省エネの等級ってなに?省エネ基準とどう違うの?
断熱等性能等級とは、住宅の品質確保の促進等に関する法律(平成11年法律第81号)に基づく評価方法基準(平成11年法律第81号。略称は「品確法」)第5の5-1断熱等性能等級に定められている等級の基準のことです。
一方、省エネ基準は「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律」(建築物省エネ法)に基づいて定められている「建築物エネルギー消費性能基準」のことを指します。実際は、役所などに省エネの届出を提出しやり取りをしていても「等級」という言葉が出てきたりしますが、一応別物ということを覚えておきましょう。
受け取り基準とは?
省エネ計算代行会社と話すと、たまに「受け取り基準」という言葉を聞きませんか?
実は、省エネの届出先である建設地の役所では、それぞれ受け取る基準を設けており、その基準の俗称のことを指しています。
役所によって、「基準値を満たしていないと書類は受け付けない」「等級3以上なら書類を受け付ける」「どんな数値でも書類は受け付ける」など、その基準はバラバラです。
そもそも、省エネの届出はエネルギー消費性能の確保のための構造及び設備に関する計画を届け出る事が義務であり、基準適合までは求められていません。
そして、適合していない場合は、必要に応じて所管行政庁の判断で計画の変更等の指示・命令が行われるのです。
なので、役所それぞれの考え方があり、受付の基準があるのです。
もちろん、基準値に適合していることが一番ですが、受け取り基準にも満たない場合は受付すらされませんので、仕様変更が必要となってしまいます。
着工の21日前ギリギリで届出をし、受け付けられないと言われないよう、予め提出先の役所へ受け取り基準の確認をしておいた方が良いでしょう。
余談ですが、(上岡設計の経験上)少なくとも断熱等級3程以上は無いと厳しいと思われます。
省エネ基準(断熱等性能等級4)のメリット・デメリット
メリット
省エネルギー性等に優れた住宅だと、補助金制度、減税、金利優遇などの特典が受けられることは知っていますか?
フラット35S、すまい給付金、長期優良住宅の申請から、贈与税の非課税措置・・・など、政府はさまざまな支援策を打ち出しています。
また、当たり前のことですが、断熱性能がアップすることで“夏は涼しく、冬は暖かい”快適な室内生活を送ることができますよね!
室内間の急激な温度変化でおこる「ヒートショック」のリスクも軽減するとされています。
長期的な目線でみると、高性能設備を導入することで光熱費などのランニングコストの削減にも繋がります。
デメリット
断熱の性能を上げるとなると、やはり高性能な仕様や設備機器の導入が必須となります。
高性能断熱材、Low-E複層ガラス、各種最新設備機器・・・となると、やはり建設費用は上がりますよね。
ただし、省エネ性能の高い住宅は補助金がもらえる場合があります!
経済産業省、環境省、国土交通省の3省が、新築・リフォームなどさまざまな補助金事業を実施しているのはご存じですか?
補助金を活用すれば負担も減りますので、上手く活用してみてはいかがでしょうか。
どうすれば省エネ基準(断熱等性能等級4)を満たすことができるか?
省エネ基準(断熱等性能等級4)の仕様について
これは皆さん気になるのではないでしょうか?上岡設計でもお客様からよく尋ねられます。
一般的に申し上げるとすれば、断熱材を厚くする、断熱材の仕様を良くする、サッシは複層ガラス(Low-E)、高性能設備を導入するといったところでしょうか。
ガラスの種類、窓の大きさによって外皮の数値は変わりますが、外からの日差しを遮る「庇」を作るのも有利に働きます。
また、太陽光発電システムを導入することもお勧めです!
太陽光を取り入れることで、数値はかなり有利側に働きますが、省エネ計算上、余剰買取を想定した太陽光発電設備を対象とするため、全量買取を想定して太陽光発電を設置する場合は「設置しない」扱いとなりますのでご注意くださいね。
省エネ基準(断熱等性能等級4)の断熱材の厚みについて
これもよく聞かれる質問の1つです。
しかし、「これをすれば大丈夫です!」と言いきれないのが、結局その建築物の形状や方位、様々な仕様によっても計算数値が大きく異なってくるからです。
断熱材は使用する種類によって熱伝導率が異なりますので、そのあたりも考慮しなくてはなりません。
弊社のある6地域で、以前RC造の共同住宅を計画した際は、硬質ウレタンフォームA種1Hの断熱材t=25~30、4地域で同様の案件を手掛けた際にはt=40程入れていたかと記憶します。
各断熱材メーカーのHPには、地域別の断熱材必要厚さ早見表など用意してありますので、参考にするのも一つの手です!
省エネ基準(断熱等性能等級4)取得に向けたポイント
これは、不利側に働いてしまう要素を頭に入れて設計をしていくのが一番良いでしょう。
というのも、実際には計算をしてみないと、具体的な数値は出てこないからです。
ただ、どちらの設備・仕様の方が有利・不利に働くかが分かっていて設計していれば、もし基準値に満たなかったとしても、どこをどう変更すればよいか予測はできるので慌てることはないですよね!
住宅・非住宅のどちらにも言えますが、床暖房・電気温水器は安易に入れてしまうと少し危険です。
不利側に働く設備機器を導入しないのが一番ですが、どちらかと言えば床暖房はガスタイプよりも電気式のものの方が不利側に働きますので、分譲マンションで床暖房などを取り入れる際には、入れる範囲も重要ですが電気で暖めるタイプなのかガスで暖めるタイプなのかも考慮した方が良いでしょう。
また、給湯器も初期費用が安いからと安易に電気温水器を導入してしまうと、数値をオーバーしてしまうケースがあります。
電気給湯器には、電気温水器とエコキュートがありますが、大きな違いはその作りにあります。
電気温水器は電熱ヒーターで水を温めますが、エコキュートは大気中の熱を使ってヒートポンプでお湯を作ります。
電気温水器よりもエコキュートの方が省エネになりますので有利側に働くのです!
省エネ基準(断熱等性能等級4)取得のためのテクニック
住宅の場合、断熱材の厚みが同じでも角部屋やピロティ上部の部屋だけが基準値を下回る・・といった覚えはありませんか?
基本的に、共同住宅などは住戸毎に計算していくため、中間階よりも外皮に多く面している角部屋や、ピロティ上部の部屋の方が数値が悪くなります。
これは温度差係数が関係しています。
“外気または外皮に通じる空間”では温度差係数が1.0に対し、”界壁”1~3地域で0.05、4~8地域で0.15と数値が異なるため、外気に面している住戸はどうしても数値が悪くなってしまうのです。
基準値に満たない場合は、NG住戸(角部屋住戸)のみ断熱材の厚みを少し厚くする、下階がピロティに面している住戸などは床の断熱を厚くする・・・といった事で数値が良くなります。
また、断熱補強も重要になります。
熱橋部が多ければ多いほど不利側に働きますので、可能であれば梁・天井・床などに折り返し断熱を施しましょう。
折り返し断熱を入れても、省エネ計算上、熱橋部分が無くなるわけではありませんが、補強を施すことによって線熱貫流率の数値が下がり、結果として等級4を取得しやすくなります。
この場合、折り返し断熱はサンドイッチ状に上下挟んでくださいね!
断熱工法、柱・梁の有無や出寸法などにより断熱補強の範囲が変わります。
例えば、片側のみの折り返し断熱は「断熱補強あり」と見なされませんので(補強ありで計算することができないので)注意が必要です。
断熱補強について詳しく知りたい方は直接お問い合わせください。
省エネ等級5 & 一次エネルギー等級6
政府が進める省エネ計画
2050年カーボンニュートラル、脱低炭素社会の実現に向けて、住宅の省エネ性能を強化するため、現行水準を上回る上位等級を設ける方針を発表しました。
現行制度では断熱等性能等級は等級4が最上位となっていますが、断熱等性能等級5の基準値はZEH水準を上回る等級を検討しているようです。
また、一次エネルギー消費量等級も、現在の最上位である等級5(基準エネルギー消費量)は、等級4と比べて10%小さい値となり、より多くの省エネルギー措置が求められています。
フラット35S(金利Aプラン)では、すでにこの「一次エネルギー消費量等級5の住宅」が条件となっていますが、新たな上位等級である等級6は省エネ基準より20%削減を検討しているようで、こちらもZEH水準を基準としており、より省エネ性能の高い住宅の供給促進を目指しています。
政府は、2025年度までに住宅を含む全ての建築物の省エネ基準適合義務化、その上で、2030年度までには住宅はZEH、非住宅はZEBレベルまで省エネ基準を引き上げることを目標とし、省エネ対策を進めています。
また、太陽光発電設備の設置義務化などの取り組みも進めており、2050年にはZEH・ZEB水準が当たり前になるとともに、再生可能エネルギー(太陽光発電等)が一般的になることを目指しています。
以下より、省エネ対策のロードマップなど確認できます。
(品確法)断熱等性能等級&一次エネルギー消費量等級 一覧表
※品確法では一次エネルギー消費量等級は等級3までありますが、対象は既存住宅のみとなります。
また、新築の住宅性能表示制度では、等級5.等級4以外は全て等級1となります。
まとめ
省エネ基準と断熱等性能等級の違いは判りましたか?
「省エネ基準適合したい」「性能評価で省エネルギー対策の等級4を取得したい」などの希望をもって計算を進めても、基準値に満たないことはよくあります。
また、仕様変更=建築費増加だけでなく、現場の納まりの問題などもありますよね?
目標値をクリアさせるための検討も、設計をよく分かっていない人に任せると、現場で納まらない断熱材の厚みを提示されてしまうこともあるようです。
建物を建てるための計算なのに、設計上困難な提案をされても、正直、時間も無駄ですよね。。
上岡設計は意匠設計事務所による省エネ計算を行っているので、設計上の納まりなども予め考慮して断熱の検討を行っています。
計算前に予めお客様の目標値を伺っているので、仮に目標値に満たなかった場合も早い段階で検討案を提示いたします!(もちろん、目標値への検討費用は無料です!)
また、設計段階での断熱検討も対応可能です。
断熱の事前検討を行うことで、実施設計に反映させることができます!
お客様としては無駄な時間も手間もかからないので、どこに省エネ計算をお願いしようかお悩みの方は、ぜひ上岡設計にお任せ下さい!