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太陽光発電の設置義務化で何が変わる?
自治体別の規制内容と設計の進め方

太陽光発電の設置義務化で
何が変わる?
自治体別の
規制内容と設計の進め方

コラム|太陽光発電の設置義務化で何が変わる?自治体別の規制内容と設計の進め方
コラム|太陽光発電の設置義務化で何が変わる?自治体別の規制内容と設計の進め方
国が掲げる2050年カーボンニュートラル実現に向け、温室効果ガス削減の取り組みが加速する中、建築物の省エネ設計が急速に進められています。

こうした取り組みの一環として、新築建物に太陽光発電の設置を義務づける自治体が増えています。実際に東京都では2025年4月から義務化が始まり、群馬県や京都府など一部の自治体でも同様の制度が導入されています。

また、導入を検討している自治体も多くあることから、今後は全国的にこの動きが広がる可能性があり、設計者にとって早い段階からの対応が求められます。

設計業務をスムーズに進めるためにも、制度の仕組みや対象建築物、計画段階で押さえるべきポイントを早めに把握しておきましょう。
太陽光発電の設置義務化で
押さえるべき4つのポイント
太陽光発電の設置義務化
で押さえるべき
4つのポイント
太陽光発電の設置義務は、自治体ごとに独自の基準やルールを設けて運用されています。

しかし、建築物省エネ法で定める省エネ基準や適用除外の考え方を参照し、条例や要綱の中に取り入れているため、細部の違いはあるものの全体としては統一的な方向性で運用されています。

そのため、すでに実施されている制度の仕組みを押さえておけば、義務化が始まっても設計変更や申請業務をスムーズに進められます。ここでは、太陽光発電の設置のために押さえておきたい4つのポイントを解説します。

― 設置義務は建築主または供給事業者に課される

― 設置義務は建築主または
  供給事業者に課される

太陽光発電の設置義務は、基本的にハウスメーカー・デベロッパーといった建築主や住宅供給事業者に課せられます。

該当する地域では、基準量を満たさない場合は申請不備となる可能性があるので、設計段階で屋根条件や荷重計算、日射シミュレーションを実施し、基準量を満たす設計計画を整える必要があります。

また、施主によっては、コスト負担の増加や、太陽光発電の導入効果や信頼性などの理由から設置に抵抗感を示すケースがあるかもしれません。

そのため、建築主や建築士は、設置計画や発電量、費用対効果、補助金活用の可能性なども含めて分かりやすく説明し、施主の理解を得ながら設計を進める必要があります。

― 義務違反には指導・勧告と公表制度を実施

― 義務違反には指導・勧告と
  公表制度を実施

事業者や住宅供給事業者が太陽光発電の設置義務に違反した場合は、まず自治体が制度施行前から周知や準備の期間を設け、義務内容を把握できるよう情報提供を行います。

それでも義務の履行が遅れた場合には行政指導が行われ、一定期間内に改善が見られなければ勧告や事業者名の公表といった措置が取られる仕組みです。

事業者名が公表されると、社会的信用やブランドイメージの低下、施主や取引先からの信頼喪失など、大きなリスクが生じます。特にハウスメーカーやデベロッパーでは、ニュースや業界紙で取り上げられる可能性も高く、販売活動や今後の受注に悪影響を及ぼしかねません。

また、自治体によっては過料などの罰則が科される場合もあるため、制度に適合した設計を徹底する必要があります。

― 設置不適格な建築物は義務の対象外

― 設置不適格な建築物は
  義務の対象外

太陽光発電の設置が義務化される主な目的は、建物の屋根などを活用して再生可能エネルギーの導入を促進し、温室効果ガス排出を削減することです。

そのため、発電効率が著しく低く、実用的な発電量が確保できない建築物は、設置義務の対象外になる場合があります。

設置義務の対象外となる代表的な条件は以下のとおりです。
  • 屋根面積が極端に小さい
  • 日照条件が著しく悪い
  • 構造的に設置が難しい
  • 防火・避難計画に支障が出る
ただし、適用除外は条件を満たしていても自動で認められるものではありません。太陽光発電の設置を義務化している自治体では、証拠となる資料を提出し、承認を得ることが求められます。

― 2026年度から工場・店舗に太陽光目標策定が義務化予定

― 2026年度から工場・店舗に
  太陽光目標策定が義務化予定

経済産業省は、年間エネルギー使用量が原油換算で1,500キロリットル以上の事業者(工場・店舗・倉庫など)を対象に、太陽光発電の導入目標策定を義務化する方針を検討しています。

対象となる事業者数は全国で約12,000件とされ、この義務化は2026年度と2027年度の2段階で施行される計画です。

義務の内容は、まず各事業者に「屋根置き太陽光パネルの導入目標の策定」を求め、その後、施設ごとに設置可能な屋根面積や実際の設置実績を報告する制度が想定されています。
  • 年間エネルギー使用量を把握し、義務対象に該当するか確認
  • 屋根面積、日射条件、構造荷重を調査し、設置可能容量を算定
  • 導入目標(何年までに何kW設置するか)を策定し、中長期計画に反映
  • 設置計画に基づいて実際に太陽光発電を導入、または導入が難しい場合は理由を明示
  • 毎年または指定されたタイミングで、屋根面積、導入容量、発電実績などを自治体または国へ報告
虚偽報告や義務不履行に対しては罰則を導入する案も取り上げられています。制度に対応するには、設計段階から屋根面積や荷重条件を把握し、太陽光パネルの設置可能容量を算定できる体制を整える必要があります。
太陽光発電の設置を義務化している自治体
太陽光発電の設置を
義務化している自治体
太陽光発電の設置について、すでに条例等で義務化を定めている自治体は以下のとおりです。
太陽光発電の設置義務化を定めている自治体
また、義務化ではないものの努力義務や推奨制度を設けて普及を促している自治体や、今後の義務化に向けて導入を検討している自治体もあります。

該当する自治体では、再エネ導入可能性の説明を求めたり、検討結果の報告を義務付ける仕組みが導入されており、事実上の普及促進策として機能しています。以下に主な自治体を整理します。
株式会社上岡祐介建築設計事務所 » 太陽光発電の設置義務化で何が変わる?自治体別の規制内容と設計の進め方
義務化されている自治体以外でも、早い段階で屋根形状や日射条件、荷重条件を把握しておくことで、制度施行後もスムーズに対応でき、建築主への説明や建築確認申請の遅れを防ぐことができます。

特に複数地域で建築物を供給する事業者や設計事務所では、制度の違いを比較しながら標準仕様を整備しておくと、将来的な法改正にも柔軟に対応できます。

― 東京都:2025年4月から実施

― 東京都:2025年4月から実施

東京都 太陽光発電設置制度比較表
東京都では、2025年4月から「建築物環境報告書制度」が施行されています。

年間供給延床面積が20,000㎡以上の「特定供給事業者」と呼ばれるハウスメーカーやデベロッパーを対象とし、延床2,000㎡未満の新築建築物について「建築物環境報告書」を提出することが義務付けられます。

建築物環境報告書には、建築物の省エネ性能の計算結果に加え、太陽光発電など再生可能エネルギー設備の設置計画を記載する必要があります。

特に太陽光発電の設置は義務項目とされており、屋根の有効面積や日射条件をもとに必要容量(kW)を算定し、計画通りに設置しなければなりません。届出は建築確認申請と並行して行い、計画どおり設置されない場合は是正・指導、場合によっては事業者名の公表といった措置が取られます。

設置可能屋根面積が20㎡未満や、日射条件が極端に悪い建物は免除対象となり、除外理由を添えて報告書に記載します。

なお、太陽光の設置義務は、建築物単位ではなく事業者全体でまとめて達成する仕組みです。そのため、すべての建物に均等に設置する必要はなく、設置しやすい建物に多めに設置して、年間で必要とされる太陽光発電容量(kW)を満たせば達成が可能です。

― 川崎市:2025年4月から実施

― 川崎市:2025年4月から実施

株式会社上岡祐介建築設計事務所 » 太陽光発電の設置義務化で何が変わる?自治体別の規制内容と設計の進め方
川崎市では、2025年4月から施行された「建築物太陽光発電設備等総合促進事業」の中で、建築物への太陽光発電の設置を促進する施策が含まれています。

延床面積2,000㎡以上の大規模建築物、または年間に延床面積の合計が5,000㎡以上となる中小規模建築物(戸建住宅・共同住宅など)を新築する事業者を「特定建築事業者」として対象としています。

算定では、屋根の有効面積や日射条件をもとに必要容量(kW)を求め、年間を通して設置状況を市に報告する必要があります。日照条件が悪い、屋根形状が複雑で設置が困難などの場合は、証拠資料を添えて除外申請が可能です。

また、義務は建築物単位ではなく事業者単位で達成する仕組みです。

設置しやすい建物に多く設置し、設置困難な建物は免除を受けることで、全体として基準量を満たせば達成となります。

― 京都府/京都市:2022年4月から実施

― 京都府/京都市:
  2022年4月から実施

京都府
群馬県 太陽光発電設置制度比較表
京都市
京都市 太陽光発電設置制度比較表
京都府と京都市では、2022年4月から再生可能エネルギー設備の導入義務が運用されています。

延床面積2,000㎡以上の特定建築物だけでなく、300〜2,000㎡未満の準特定建築物も対象に加わり、屋根や敷地内に太陽光発電などを設置して、条例で定める基準量(MJ/年)を確保する必要があります。

京都市は府条例を基準にしながら、景観保全や文化財保護に配慮した独自の運用基準を定めています。設置位置や外観への配慮、反射光対策などが詳細に規定されており、設計段階での検討が必須です。

設計者は、対象建物かどうかを確認したうえで、日射条件・設置可能面積を早期に把握し、建築確認申請時に導入計画を添付する必要があります。竣工後には実施報告を提出し、基準量を満たしていることを証明します。

― 群馬県:2023年4月から実施

― 群馬県:2023年4月から実施

群馬県 太陽光発電設置制度比較表
群馬県では、脱炭素社会の実現を目指す「ぐんま5つのゼロ宣言」の一環として、2023年4月から延床面積2,000㎡以上の建築物を新築・増築・改築する建築主に対し、再生可能エネルギー設備(太陽光発電設備など)の導入を義務付けています。

建築主は、計画段階で「再生可能エネルギー設備等導入計画」を作成し、竣工後に実施報告を提出する必要があります。導入量の基準は、年間に得られる再生可能エネルギー量が「60MJ×延床面積(㎡)」以上となるように算定します。

設置が困難な建物については、日照条件や屋根構造などの理由を明示すれば免除が認められる場合があります。延床面積2,000㎡未満の建物は努力義務とされ、導入を検討することが推奨されています。

― 努力義務や推奨制度がある自治体

― 努力義務や推奨制度がある
  自治体

再エネ導入を促すために努力義務や説明制度を導入する自治体では、建築士が建築主に対して再エネ導入の可否、設置可能容量、コスト試算などを書面で説明することが求められます。

努力義務や推奨制度がある自治体は、横浜市・大阪市・長野県で、詳細は以下のとおりです。
再エネ導入を促すための努力義務や推奨制度がある自治体(横浜市・大阪市・長野県)における
上記の制度は、設計段階での検討や情報整理を後押しする仕組みとして活用できます。

早い段階で屋根面積や日射条件、荷重条件を把握し、導入可能容量やコスト試算をまとめておけば、施主への説明がスムーズになり、後から設計変更するリスクも減らせます。
太陽光発電の導入を前提とした設計の進め方
太陽光発電の導入を
前提とした設計の進め方
太陽光発電を設置する際は、建築物全体の構造や設計を調整する必要があります。

太陽光パネルや架台の重量が屋根にかかるため、耐荷重や風圧・積雪荷重を考慮する必要があるためです。設計段階では、特に以下の点に注意して計画を立てるようにしましょう。
  • 太陽光パネルの配置計画と出力容量の決定
  • 設置面積と方位・勾配の最適化
  • 固定荷重と外荷重の算定
  • 点検・清掃を考慮した配置設計

― 太陽光パネルの配置計画と出力容量の決定

― 太陽光パネルの配置計画と
  出力容量の決定

太陽光発電の設計では、屋根の有効面積に基づいて太陽光パネルの配置計画と出力容量を決定します。

まず、BIMモデルやCAD図面で有効屋根面積を確定し、太陽光パネルのサイズと枚数を仮配置します。配置時にはパネル間の間隔や影を避けるための距離を確保し、隣接パネルや屋根の突起物による影の影響をできるだけ減らします。

次に、仮配置したパネルの合計出力(kW)を計算し、自治体や条例で定められた設置基準量(kW)を満たしているか確認します。基準量に届かない場合は、屋根勾配の変更や寄棟・切妻などの屋根形状の調整、あるいは外構部への設置で容量を確保します。

最後に、レイアウト図・系統図・容量計算書を設計図書としてまとめ、建築確認申請や環境性能報告書に添付します。

― 方位・勾配の最適化

― 方位・勾配の最適化

太陽光パネルを設置する場合、屋根の形状・勾配・方位を正確に把握し、設置可能な面積を確定します。屋根の傾斜角度や向きが適切でないと、日射量が減り発電量が低下する可能性があるためです。

また、落雪による通行人や駐車中の車への被害、反射光が近隣住宅や道路利用者の視界を妨げるといったトラブルに発展する可能性もあります。

そのため、設計段階で年間の発電可能量だけでなく、軒や庇の出寸法、すだれや外付けブラインドといった日射遮蔽部材の活用も併せて検討することで、発電効率と近隣への配慮を両立した計画とすることが重要です。

― 固定荷重と外荷重の算定

― 固定荷重と外荷重の算定

太陽光パネルを安全に設置するためには、固定荷重と外荷重を正確に算定し、屋根構造の許容耐力を照査することが不可欠です。

固定荷重とは、太陽光パネル1枚の重量に加え、通常は架台・支持金具の重さを含みます。例えば、1枚200Wのパネルを20枚設置するシステムを設置する場合、合計でおよそ300〜400kgの荷重となり、屋根構造にかかる影響を無視できません。

配線やパワーコンディショナなどの付帯設備を含めるかどうかは設計仕様によるので、仕様書を確認する必要があります。

また、外荷重は、風圧・積雪・地震など環境条件によって変動する荷重を指します。日本国内では、建築基準法や関連する構造設計基準に基づき、地域ごとの風速や積雪量、地震動の条件を反映して、風圧荷重・積雪荷重・地震時の慣性力を算定するのが一般的です。

豪雪地域や沿岸部では荷重が大きくなるため、母屋や垂木の補強、アンカー仕様の選定が必要になるケースもあります。これらの荷重計算を設計初期に行い、必要に応じて構造補強やアンカー仕様の変更を設計図書に反映することで、長期的な安全性を確保できます。

― 点検・清掃を考慮した配置設計

― 点検・清掃を考慮した配置設計

太陽光パネルの発電性能を長期間維持するには、定期的な点検や清掃、故障時の安全な交換作業を見据えた設計が求められます。
太陽光パネルの発電性能を長期間維持するための点検・清掃を考慮した配置設計
上記の点検や清掃を安全かつ効率的に行うためには、以下の要素を設計時に盛り込む必要があります。
・作業動線の確保
屋根上で作業できる幅や足場スペースを設け、作業者が安全に移動できる動線を設計に盛り込む。
・架台・金具の配置
点検しやすい位置に配置し、ボルトや支持部材が目視確認・締め直しできるようにする。
・落下防止対策
必要に応じて命綱アンカーや落下防止金具の設置位置を検討し、作業時の安全性を確保する。
・排水計画との整合
清掃時の水や雨水が滞留しないよう、排水経路や雨樋の位置を考慮してレイアウトする。
・将来交換を見据えたスペース確保
PCSや接続箱、配線ルートを明確にし、交換・メンテナンス時に作業しやすい十分な余裕を確保する。
設計段階でメンテナンス性を考慮することで、長期的な発電性能を維持しやすくなり、点検コストや事故リスクも低減できます。
太陽光発電を含む
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建築物の省エネ性能向上が強く求められるなか、太陽光発電の需要は今後ますます伸びていくと考えられます。ただし、容量計算や設計図書の作成は手間がかかるため、業務の負担になりかねません。

省エネ計算や太陽光容量算定について、社内での対応が難しい場合は、ぜひ当社にお任せください。

上岡祐介建築設計事務所では、太陽光設備の容量計算を含む省エネ計算と、必要な図面作成をワンストップで対応します。

当社はこれまで1,547社2,573物件超の省エネ計算代行・設計支援に対応しており、共同住宅・店舗・ホテル・介護施設・工場・倉庫など幅広い用途で実績を積み重ねてきました。

そのため、現場の納まりやコストを踏まえた実務的な提案が可能で、建築確認申請や建築物環境計画書の作成もスムーズに進められます。

また、省エネ適合性判定やBELS評価、CASBEEなど各種環境性能評価にも対応できる体制があり、建築設計から環境性能評価まで一貫してサポート可能です。

提出期限が迫っている案件でも短納期で対応できるため、設計者や工務店の業務負担を軽減し、施主への説明や申請業務に集中できます。ぜひこの機会にご相談ください。


本記事は 2025年12月時点の公表資料をもとにした一般的な解説です。実際の設計・申請における判断に際しては、必ず最新の法令・条例・要綱および所管行政庁・専門家の確認を行ってください。
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