政府は2030年までに、新築建築物のZEB・ZEH基準適合を目指しており、BELSはこの目標達成を支援する有効な手段の一つとなっています。
BELSの評価は星の数が多いほど高くなりますが、高評価の獲得は決して容易ではありません。専門的な知識や複雑な計算が必要となり、申請手続きにも多くの時間と労力を要します。
この記事では、新BELS制度の概要や変更点、そして高評価取得に向けたポイントを詳しく解説します。
BELSの概要と目的
BELSの概要と目的
建築物のエネルギー消費性能は仕組みが複雑で、一般の消費者が購入前に判断するのは困難でした。しかし、BELSでは建物の断熱性能や設備の省エネ性能を総合的に評価した結果が、認定時に発行される評価書やラベルに★の数で記載されます。
そのため、専門的な知識がなくても建築物のエネルギー消費性能を容易に把握できるようになります。
また、国は2030年度以降の新築建築物についてZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)・ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)水準の省エネ性能確保を目指しています。
達成するには省エネ性能表示の件数を増やし、消費者の認知を拡大することが必要ですが、BELSによって目標の実現に大きく貢献することが期待されています。
― 新築・既存建築物の省エネ性能を星の数で見える化
BELSで表示される星の数は、再エネ設備のない住宅で最大4つ、再エネ設備がある住宅と非住宅では最大6つで評価され、省エネ性能が高いほど星の数が増えていきます。

一方、再エネ設備がある住宅と非住宅では上限が上がり、40%以上50%未満の削減率では★5つ、50%以上の削減率で★6つとなっています。
一次エネルギー消費量の削減率は、BEI値(Building Energy Index)を基準にして決まります。BEI値とレベルの関係は以下の通りです。
レベル
BEI値の範囲
★6
0.5≧BEI
★5
0.6≧BEI≧0.5
★4
0.7≧BEI≧0.6
★3
0.8≧BEI≧0.7
★2
0.9≧BEI≧0.8
★1
1.0≧BEI≧0.9
★0
BEI>1.0
― BELS評価書の取得までの目安は2~3カ月
省エネ計算を完了させ、BELS申請書を取りまとめるのに2週間~1カ月、BELS評価機関へ提出後は評価を受け、指摘対応をしたのち、評価書を取得するまでが1~2カ月です。
省エネ計算に時間がかかればそれだけ取得までの期間が長くなります。また、2025年4月から省エネ適合性判定制度が開始されることもあり、評価機関での審査員不足が予想され、審査期間が延びる可能性があります。そのため、BELS申請を行う際は、あらかじめ評価機関にスケジュールの確認をしておくことも大切です。
BELS評価における省エネ計算の方法
BELS評価における省エネ計算の方法
大きく分けると、戸建てなどの住宅、マンションやアパートなどの共同住宅、それ以外の非住宅用途です。さらに、住宅と非住宅の用途がひとつの建物に存在する複合建築物の場合もあります。
計算方法によってはBELS評価で使用できないものがあるため注意しましょう。
― 戸建住宅の省エネ計算の方法

出典:国交省:改正建築物省エネ法オンライン講座資料「省エネ性能に係る基準と計算方法」をもとに弊社作成
― 共同住宅の省エネ計算方法

出典:国交省:改正建築物省エネ法オンライン講座資料「省エネ性能に係る基準と計算方法」をもとに弊社作成
― 非住宅の省エネ計算の方法

出典:国交省:改正建築物省エネ法オンライン講座資料「省エネ性能に係る基準と計算方法」をもとに弊社作成
室ごとに詳細な情報を必要としていることもあり、計算結果の精度が最も高くなります。また、1つの建築物の中で異なる用途が複数あったとしても、それぞれの用途に合わせた室仕様で計算します。そのため、誤差の少ない計算をおこなうことも可能です。
計算は主となる室だけになるため、対象建築物のすべての室の情報を入力する必要はありません。標準入力法に比べると短い時間で建築物の省エネ性能について評価できます。
モデル建物法は、BELS評価などの各申請にも対応できるので、採用されるケースの多い計算方法です。
小規模版モデル建築物法は、建築物省エネ法(建築物のエネルギー消費性能の向上等に関する法律)における説明義務制度と届出義務制度に利用される計算方法です。基本的な省エネ性能の確認を目的としているため、詳細な省エネ性能を評価・格付けするBELS評価の申請では認められていません。
また、2025年4月の建築物省エネ法の改正により、ほぼすべての建築物に省エネ基準の適合が義務づけられることから、廃止が決まっています。
― 住宅と非住宅の複合建築物における省エネ計算の方法
例えば、1階が店舗(非住宅)で2~5階が共同住宅の場合、以下のようになります。
1階店舗部分:非住宅の計算方法(標準入力法またはモデル建物法)を使用
2~5階住宅部分:住宅の計算方法(仕様基準または性能基準)を使用
このように、複合建築物の場合は用途区分ごとに適切な計算方法を選択し、それぞれの基準に適合させる必要があります。
― 省エネ基準の判定方法
外皮性能における仕様は、断熱材やサッシなどに求められる性能値が決まっています。また、一次エネルギー消費量の仕様は、国によって指定された設備しか設置ができません。
仕様基準は詳細な計算が不要なため、効率的に省エネ基準に適合できます。ただし、現場での変更などにより決められた仕様から外れると、不適合となります。そのため、省エネ計算に関する変更が難しいという点には注意が必要です。
また、誘導仕様基準という基準もあり、ZEHレベルの省エネ性能について満たすべき数値や仕様が規定されています。
仕様基準を採用する際のもう一つの注意点は、アパートやマンションなどの共同住宅でZEHの評価を受けたい場合です。BELSにおけるZEH評価は、専有部と共用部の一次エネルギー消費量を合わせる必要がありますが、仕様基準では決められた仕様の設備を設置すればよいだけなので、一次エネルギー消費量の算出ができません。そのため、ZEH評価の取得を目指す場合は、一次エネルギー消費量を詳細に計算できる性能基準を選択する必要があります。
建築物の図面や仕様書から断熱材やサッシの性能値、設備の能力などを読み解き計算します。仕様基準に比べると省エネ性能の結果がわかるまで時間がかかり、専門知識も求められる計算方法です。また、共同住宅では、全住戸で省エネ計算が必要です。
ただし、基準値を満たす範囲内であれば、断熱材を薄くすることや設置予定の設備機器の変更ができるため、仕様基準よりも設計の自由度が高く、変更にも柔軟に対応可能です。
省エネ工事において建材の無駄を減らし、物件ごとに最適な断熱仕様や設備を選んで設計することが可能になります。
2024年4月のBELS制度改正ポイント
2024年4月のBELS制度改正
ポイント
BELS評価における制度の改正が2024年4月に実施されました。
制度改正によって評価書の書式が大幅に見直され、専門家だけでなく一般の方にも分かりやすい内容になりました。
これにより、事務所やテナントの賃貸、住宅の購入時に、建築物の省エネ性能をより簡単に比較検討できるようになりました。
さらに、BELS評価書が発行されると同時に、省エネ性能ラベルも発行されるようになりました。
この省エネ性能ラベルはデータ形式で提供されるため、企業のウェブサイトや広告、チラシなどにも掲載できます。ラベルにはBELS評価書の要点がまとめられており、評価書よりも一般の方向けに簡潔で分かりやすいデザインになっています。
― BELS評価書(住宅):新様式で記載項目を拡充


BELS新様式における評価書の拡充・追記の内容は次の通りです。
・エネルギー消費性能
・断熱性能
・ZEH水準やネット・ゼロ・エネルギーに達成した場合の表記
・再生可能エネルギー設備の有無、設備の種類、容量
・目安光熱費
太陽光発電による自家消費分も新たに表示項目として加わり、その割合が明確に把握できます。また、BEI値・削減率は以下の3つに区分され、それぞれの数値を大きく表示することで、内容を一目で確認できるようになりました。
省エネのみ(再エネなし)
再エネあり(自家消費分)
再エネあり(自家消費分+売電分)
これにより、建物のエネルギー消費性能がより明確に可視化され、環境性能の比較検討もしやすくなりました。
BELS評価における断熱性能は、1から7までの数字が記載された家マークで表示され、該当する等級の家マークが着色されます。
また、断熱性能を評価する以下の値についても大きく表示しているため、わかりやすくなっています。
・UA値(外皮平均熱貫流率)
・ηAC値(冷房期の平均日射熱取得率)
2つの値は、地域ごとに異なる基準が設定されていますが、評価書には各地域の基準値も併記されているため、性能基準への適合状況が明確に確認できます。
・ZEH水準
・ネット・ゼロ・エネルギー
基準を達成した住宅と評価された場合、達成項目のチェック欄にマークが付き、ZEHマークのロゴが表示されます。
ZEH水準の達成基準は、以下の2つの条件を満たす必要があります。
・エネルギー消費性能が星3つ以上
・断熱性能がレベル5以上
ネット・ゼロ・エネルギーの達成基準は、太陽光発電設備で創り出すエネルギー(創エネルギー)の売電分も含め、エネルギーの収支がゼロ以下になることが条件です。
エネルギーの収支とは、住宅で消費するエネルギーと設置した太陽光発電による創エネルギーの差のことです。消費するエネルギー ≦ 創エネルギーとなった場合に、ネット・ゼロ・エネルギーを達成したことになります。
達成項目が大きく明確に表示されることで、その住宅が高い省エネ性能基準を達成していることが把握しやすくなっています。
BELS評価を受ける住宅における再生可能エネルギー設備の導入の有無が表示されます。さらに導入されている場合は、設備の種類や容量についても記載することが可能になりました。
なお、この項目の評価書への表示は任意となっています。申請者の選択により表示の有無を決めることで、表示をしない場合は、BELS申請書の該当チェック欄に注意して記入する必要があります。
目安光熱費は、国が一定の世帯構成と光熱費の単価(ガス・電気・灯油など)を仮定として決めて、省エネ性能によって計算しています。
実際の光熱費は、エネルギーの使用方法、住んでいる地域、世帯人数で異なるため、あくまでもひとつの目安でしかありません。しかし、決められた同じ条件のもとで目安光熱費を計算しているため、金額の差がそのまま省エネ性能の良さを表します。
目安光熱費の表示も、申請者が選択できる任意項目となっています。金額表示をしたくない場合は、非表示として申請することが可能です。
― BELS評価書(非住宅):BEI値や基準達成状況を詳細に表示


ただし、住宅のBELS評価書に記載されている以下の項目は、非住宅には含まれていません。
・外皮性能のレベル表記である家マーク
・目安光熱費に関する情報
また、非住宅の建築物では、ネット・ゼロ・エネルギーを達成した場合、チェック欄のチェックマークとZEBマークのロゴが表示されます。
ZEB評価を受けるためには、エネルギー消費性能で星6つ(一次エネルギー消費量の削減率50%以上)の取得が条件です。
なお、2024年4月からは大規模(延床面積が2000㎡以上)の非住宅建築物について省エネ基準が引き上げられ、用途ごとに基準値が異なるので注意が必要です。
用途 | 一次エネルギー消費量の削減率 | |
---|---|---|
改定前 | 改定後 | |
工場など | BEI≧1.0 | BEI≧0.75 |
事務所・学校・ホテル・百貨店など | BEI≧0.8 | |
病院・飲食店・集会所など | BEI≧0.85 |

ZEH住宅に力をいれる企業が増えている
ZEH住宅に力をいれる企業が
増えている
省エネ性能が住宅購入時の重要な判断材料となっており、BELS評価が企業の市場競争力を高めていることが背景にあります。
また、2025年の省エネ基準義務化、2030年のZEH・ZEB基準義務化という将来的な規制強化への対応も理由の一つです。各企業は早期から対応を進めることで、将来的に資産価値が低下するリスクを回避しようとしています。
企業のZEH住宅への積極的な取り組みを考えると、BELSの星の数は、住宅の市場価値に大きな影響を与える重要な指標となってきています。今後は特に、省エネ性能が低い住宅は市場での競争力を失う可能性も高まるため、より多くの星を獲得することが求められます。
― 補助金制度や税制優遇を活用した提案がしやすい
補助金や税制優遇を活用することで、企業は顧客への魅力的な提案が可能となるため、企業各社はZEH基準の達成にとどまらず、より高い省エネ性能を持つ住宅の開発・提供に積極的に取り組んでいます。
複雑なBELSの申請は上岡建築設計事務所が解決します
複雑なBELSの申請は
上岡建築設計事務所が解決します
BELSの申請手続きは、新制度への対応や評価機関のやり取り、ZEH・ZEB基準の達成に向けた計画立案など、専門的な知識と経験が必要とされる場面が増えています。設計業務と並行してこれらの申請手続きを進めることは大きな負担となり、業務に支障をきたすケースも少なくありません。
当社では、豊富な経験を持つ専門スタッフが、BELS認証の取得を全面的にしっかりサポートいたします。図面をお送りいただくだけで、BELS申請に必要な書類作成から審査機関との折衝まで、すべて代行いたします。目標とする星評価の達成に向けた提案も可能です。